2章-01 両親不在
アヌビス「…で、これから、どうするんだ?」
ナオヤ「八音の旋律、他のやつは一体どこにあるんだろう、分かるか?」
サヤ「知らないよ」
ナオヤ「…もしかして、手がかり無しか?」
サヤ「私ほんとはノルンの紹介だけしたら帰るはずだったんだからね。もう何日も経っちゃったじゃない。今すぐ帰るわ。お母さん心配してるはずだし」
アヌビス「おいおいおい、ここでお別れかい?」
サヤ「だって私がいたって何にもならないでしょ」
サヤ「じゃ、がんばってね~」
サヤはそう言いながら背を向けて去っていった。
途中で、封筒を開け、中の手紙を読み始める。
…と、サヤの足が、急に止まった。
サヤ「………」
サヤ「…いみがわからない」
アヌビス「…サヤちゃん?どうしたの?」
サヤ「…待って」
ナオヤ「…どうした?」
サヤ「……」
サヤは泣き出しそうな目で、手紙を見せた。
アヌビス「…サヤちゃん!?」
ナオヤ「…」
…ごめんなさい、サヤ。
私は、今までずっとあなたに嘘をついてきました。
私は、あなたの実の母親ではないのです。
アヌビス「…!!」
あなたの父親と結婚したとき、すでにあの人は娘を連れていました。
結局あの人は、わたしに自分の娘を押し付けて逃げる形になったのです。
あなたにはつらくあたってしまいました。
ですが、あなたはこの旅路で、どうか自分の幸せをつかんでください。
こんなことを言う資格が私にあるのかはわかりませんが。
私は姿を隠し、どこか人の寄り付かない所でひっそりと生きていきます。
さようなら。
ナオヤ「これ本物かあ?別のヤツが書いたんじゃねえだろうな」
サヤ「…ちがう、この字、あの人の…」
アヌビス「…なんて自分勝手な親なんだ」
サヤ「…ねえ、最低、
わたし、わたし…どうすればいいの?こんなの…急すぎるよ…あんまりだよ…」
ナオヤ「…まあ俺も、はなからあの家には帰ろうと思ってないし」
サヤ「…え…」
ナオヤ「しゃあねえ、連れてってやるよ。来い。
ああ、俺ってお人よしだなあ」
サヤ「ぐすっ、ぐすっ…」
ナオヤ「おい、泣き止め」
サヤ「…だってぇ…わたしこれから、どうすればいいか…」
ナオヤ「…あーもう…どっかで顔でも洗って、そんで深呼吸でもしてこい」
サヤ「…うん」
アヌビス「…俺も、母親はいない」
サヤ「…え?」
ナオヤ「いや、知らんし」
アヌビス「まあ、聞いてくれよ。
俺が13歳のとき、おふくろはキャットフードに駆り出されそこで帰らぬ人となった」
サヤ「…どうして、そんなことに?」
アヌビス「キャットフードはそのころ丁度復興作業中でね。人手が足りなかった。
で、そこの工事におやじとおふくろも駆り出されたんだ。だけど工事中に起こった事故でおふくろ、死んじまった。
親父は…内乱に巻き込まれて死んじまった」
サヤ「…」
アヌビス「…似た者同士だな、俺たち」
ナオヤ「馴れ馴れしくするな」
アヌビス「馴れ馴れしくしてるわけじゃねえだろ」
ナオヤ「…言い方は悪いけど…親のほうが先に死ぬのは当たり前だろ。
それに」
『親二人死んだぐらいで』
サヤ「…わたしは…まだ、そこまで割り切れないよ…」
ナオヤ「…おまえの場合、まだ死んだわけじゃないんだ。
見つけ出してとっちめてやればいい。そうだろ?」
アヌビス「…」
その時、唐突に電子音が鳴った。
サヤ「あ、メール来た」
サヤはポケットから携帯を取り出した。
サヤ「ノルンからだ」
サヤ「件名 みつけた
知り合いに八音の旋律の場所知らない?って聞いたら一つ持ってるんだってさ。
バイオレットの森の奥に住んでるから、
行ってみたらどう?」
サヤ「…」
ナオヤ「えらい簡単に見つかるもんだな」
アヌビス「世界って広いようで案外狭いのかもな」




