1章-28 終局
こうして、
長い長い3日間を経て、
思ったより簡単に、私達は、八音の旋律の一つを手に入れたのだった。
ノルン「…じゃ、約束だから、このバイオリン、あなたに…」
ナオヤ「いいや、このバイオリンは、集めるの最後にする」
ノルン「…え?」
アヌビス「それってどーいうこと?」
ナオヤ「集める順番は決まってないから、これを最後に回収する。それだけだ」
ノルン「…でも、わざわざ後で取りに来るのなら今持ってった方が…」
ナオヤ「バイオリン俺たちが持ってても仕方ないからな。ぎりぎりまでいいわ」
ノルン「…いいの?」
ナオヤ「ああ、他の7つを集めたらまた来る。その時ちょっと貸してくれ」
ノルン「…わかった、ありがとう」
サヤ「…でも、なんで?」
ナオヤ「大切なんだろ、そのバイオリン」
ノルン「………うん。
まあ…ね」
日が沈もうとしていた。
サヤ(復讐…)
わたしは、お父さんを、殺したいほど憎んだ。
でも、実際、殺せただろうか?
答えられない。
『殺したって、満足できなかったんだろ?』
まるで私に言ってるみたいに聞こえた。
きっとそうだ。だったら、
殺さなくてよかったに違いない。
サヤ「…あの子…タツ、かわいそうだね」
ナオヤ「…まあな」
アヌビス「…だからといって、どうすることもできねえしな…」
サヤ「…ねえ、最低」
ナオヤ「…何だよ」
サヤ「…もし…もし…側にいる人が、不幸になったら…私達には、何ができるのかな」
ちょっと、唐突な質問だった。
でも、会話なんてこんなものだ。
ナオヤ「…何もできないんだよ」
サヤ「…」
ナオヤ「何もしなくていいのさ。普段通りで」
難しいけど。
サヤ「そうかな」
ナオヤ「そんなもんだ。
それこそ、神じゃあるまいし」
サヤ「…そう、かなあ」
ナオヤ「そうだよ。何かしようなんてそれこそ傲慢だ」
こんな傲慢な人間を私は最低以外知らないのだが。
サヤ「…かもね」
アヌビス「…俺はそうは思わない」
サヤ「え?」
ナオヤ「…どう思う?」
アヌビス「どれだけ小さいことだって、何かできることはあるとおれは信じてるよ」
ナオヤ「そうか」
アヌビス「突っかかってこないんだな」
ナオヤ「べつに。
いいじゃないか、そういう風に信じる奴がいたって」
サヤ「…」
アヌビス「おまえって、たまに、最低らしくないよな」
ナオヤ「人のことをどう受け取るかはおまえ次第だよ」
(わたしは、どうするんだろう…)
そして、沈黙のまま四人は歩いていく。
第一章 完




