1章-27 詰問
ノルン「……でも」
ナオヤ「まだ何かあるか?」
ノルン「どこまであなたの計算通りだったの?」
ナオヤ「おれはやることなすことすべて行き当たりばったりだよ」
ノルン「そんなわけない。
そんなはずはない。
だいたいあの少年の持ってた爆弾は何なの?
あれ、わたしのでしょ」
ナオヤ「そうなのか?」
ノルン「とぼけないで。一つないことはもう確認したんだから。
いつのうちに盗ってあの子に渡したの」
ナオヤ「なんでおれになるんだよ。
おまえが偶然落とした爆弾をあいつが偶然拾った可能性もないことはない」
ノルン「だいたい、あなた散々言ってたじゃない。
復讐するなら自分の手でやれ、だの、
他人をあてにしちゃいかんぞ、だの。
私には、あなたがあの子をそそのかして復讐させたように見えるんだけど」
ナオヤ「だったら、何か問題でもあるのか?」
とぼけるその姿は、まさに最低だった。
ノルン「そのうえ、あなたは青龍にまで
根回しをしてたわよね。
だとしたら、あなたはあの状況で誰がどういう行動を起こし、
その結果としてどうなるかまで
すべて予測していたことになる。
そして、青龍が起きてくるタイミングまで、
あなたの指示した通りだったじゃない」
ナオヤ「まさか。たまたまだよ」
ノルン「わたしには、すべて茶番にしか見えないんだけど。
あなたの描いた絵の上で、みんな踊っていただけにしか。
だとしたら、あなたがその絵を、いつ描いたのかってことになる」
問い詰めるようにノルンは続ける。
しかし、最低はとぼけるだけだった。
ナオヤ「人を買いかぶりすぎだよ。
人を踊らせるなんて、そんなことできるわけがない。
だいいちおれは最低だ、そこまでやる理由がない」
ノルン「それがわからないのよ。
どうして、そこまでやったのか」
ナオヤ「そこまでわかってるなら想像はついてるだろ」
ノルン「まぁ、そうだけど…
だとしたら…」
ナオヤ「おれが求めてたのはあいつらの和解。
そうすれば、少しでもあいつらは救われる」
この場合、あいつらには、青龍側の家族も含まれる。
ノルン「…で、あなたが憎まれ役を引き受けたわけね。
最低だから」
ナオヤ「引き受けるも何もおれはあれが素だよ。
それに、大半がアドリブだ。
あんなものの、予想なんてできるわけがない。
ある程度うまくいって、正直ほっとしてる」
ノルン「それと、もう一つ」
ナオヤ「まだあるのか?」
ノルン「あなたはあの場で、いかにも交渉みたいなことしてたけど、
あんなスピードで交渉が進むとは到底思えない」
ナオヤ「細かいこと気にするね。
現に、進んだんだからそれでいいじゃないか」
ノルン「私たちが寝てる間に秘密裏に交渉してたんでしょ。
通信機に履歴があったわ。
どんな手を使ったのよ」
ナオヤ「そんなの、言えるわけないじゃないか」
ノルン「…そう。
…ふっ」
ナオヤ「どうした?」
ノルン「あなた、自分で自分のこと最低って言ってるけど、
それってあれ?
能ある鷹は爪を隠す、ってやつ?」
ナオヤ「おれは能無しだよ。
それにおれは自分で自分のことを最低と言ってるんじゃない。
みんながそう言うから、そうしてるだけのことだ」
最低はノルンのほうを見ずに言った。
ナオヤ「そもそも、あの子がやってくること自体、おれの想定外だった」
ノルン「そう。
ふふっ」




