1章-24 裁判④ なぜ、殺してはいけないの?
アンジェラ「…ちがう!こんなの何の解決にもなってない!」
一人の女の人の声が、それをかき消した。
ナオヤ「…でも、こいつが望んだことだ」
アンジェラ「…なにがこいつが望んだことよ!。
あんた!いきなり偉そうにしゃしゃり出てきて!何様なのよ!
どうしてくれるのよこの後始末!」
ナオヤ「…こいつらだけの問題にはじめに偉そうにしゃしゃり出てきたのはどっちだろう。
はじめに何様なのとしか思えない発言をしていたのは誰なんだろう。
わが身を省みることもせずに、
自分達にも当てはまる理由で他人を堂々と批判しようとする
あんたのその神経には呆れるとしか言いようがないね」
アンジェラ「…いい、ロバートは勇者。あんたみたいなガキとは違うのよ!」
ナオヤ「おれは最低。
あんたらみたいな勇者さんたちとは違うんだよ」
アンジェラ「なにが最低よ!
責任取りなさいよ!あんたが殺したも同じなのよ!あんたがあの子に殺させるように煽ったんじゃない!それで、あの子が将来苦しむことになったら、どうする気なの!?」
ナオヤ「…事実を都合よく摩り替えてもらっちゃ困る。
殺したいって言い出したのは、あいつ。
おれが煽ったんじゃなくて、あんたらが必死で止めようとしてただけ」
アンジェラ「…こいつ!」
ぴしっ!
ナオヤ「…」
「このガキ、散々好き勝手やって、けっきょくこの結果だ!」
「こうなることはわかってたのに、おまえのせいで!」
「おまえが死ね!」
罵声と暴力がナオヤに襲い掛かる。
ロバート「よせ!」
勇者の一喝で、住人たちは帰っていった。
アンジェラ「この死体は、あんたらが処分しなさいよ!」
そう言って、勇者たちも去っていった…。
ナオヤ「…いてぇ」
ノルン「大丈夫?」
サヤ「…バカなことするから…」
ナオヤ「…おれがやりたいようにやっただけのこと。
こうなることはわかってた」
サヤ「…じゃあ、なんで、こんなことしたのさ…」
ナオヤ「おれがそうしたいと思ったから」
そんなことに理由なんて必要あるまい。
アヌビス「んなことより、あいつと、この死体はどうするんだ」
タツは呆けた様に立ち尽くしていた。
そこにさっきのアカネがやってくる。
「やったじゃない」
「…」
「あの人たちにお礼言おうよ!ね!」
「…」
「どうしたのさ!なんでそんなにボーっとしてるのさ!」
「…」
「タツ!!」
「…」
タツは何一つ反応しなかった。
「…まあいいや。…わたしも、やる。
…もう死んでるけど、それでも、やる」
アカネは決意を告げた…が
「やめろ!!」
タツはアカネの手を止めた。
「…!?」
「…やめろ!」
「…ど、どうしたの、さ」
二人とも、声が震えだしていた。
「やめろ!!
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ、
やめろ!!」
まるで念仏のように同じ言葉を繰り返す。
「どうして?
どうして止めるのさ…
まさか独り占めする気!?
わたしにだって復讐させてよ!!」
「やめろ!!
手を汚すのはぼくだけで十分だ、
やめてくれ!!」
タツは手を、足を、膝をガクガク震わせながらも必死で叫んだ。
ナオヤ「やりたいならやればいいじゃないか」
そこに最低の冷酷な声が、響き渡った。
「え…」
ナオヤ「こんなやつの言うことなんか、ほっといてさ」
「な、何を…!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
ナオヤ「おまえに止めるだけの理由があるのか?」
それは、勇者にも言ったこと。
「な…」
「…う…」
ナオヤ「おれを納得させるだけの理由があるなら、おれはどいてやるよ」
「それは…」
ナオヤ「じゃあ、こんなふぬけは放っておいて、とっととやっちゃおうぜ」
「…え」
ナオヤ「ここまで来てやめるとかへたれたこと言い出したら、おれ怒るぞ?」
「…。うん、わかった」
アカネがナイフを空高く掲げて、青龍目掛けて今にも振り下ろさんとする!!
その光景を直視した瞬間、タツの顔色が目に見えて変わった。
「うっ、うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
タツは発狂したかのような叫び声を上げる。
そのまま、アカネめがけて体当たりをする。
「……」
「なんで、なんで!」
「人を殺しちゃダメなんだ!!おまえは殺しちゃダメなんだよ!!」
タツは泣いて、叫んで訴えた。
「なんで自分ばかり!そんなのずるいよ!」
アカネも泣いて、叫んで訴える。
サヤ「なんだかんだ言っても、人殺しとそうじゃないのって、
だいぶ、差があると思うのよね」
アヌビス「まぁ、なぁ…」
ノルン「…人を殺した重みは一生消えないと思うよ。
まぁ、人一人殺すんだから、当然といえば当然の報いよね」
サヤ「でも、これじゃ、これじゃ…あの子が、あまりにも救いが…」
サヤは涙目になっている。
ナオヤ「大丈夫だって。もういいよ」
ぽん。
その合図と共に青龍は立ち上がった。
「な!?」
「………」
サヤ「どういうこと!?」
ナオヤ「これね、ノルン特製の血ノリで、刺さると同時に噴き出す優れもの」
ノルン「ねっ、すごいでしょ。みんな騙されちゃう…
ってなによそれ」
ナオヤ「うん。役に立ったよ。ありがとな」
タツ「…」
ナオヤ「ん」
タツ「なんだよこれ…」
ナオヤ「今度は、本物。
さっきのは予行練習だよ。さあ、本番行こうぜ」
そう言って最低はまたもナイフを手渡した。
「………」
ナオヤ「どうだ、殺してみた気持ちは」
タツ「…うるさい…
うるさい…こんなもの…ちくしょう!!!」
タツはナイフを地面に向けて放り投げ、そして泣き崩れた。
「…うう…殺したって、何も解決しないことぐらいわかってる…
それでも、それでも…」
あまりにも悲痛な叫びが続く。
だが、ナオヤはまだこれで、終わらせる気はなかったのだ。




