1章-20 演奏
アヌビス「で、いったい誰があいつを裁くんだい」
ノルン「勇者よ。つまりさっきのロバートさん」
アヌビス「そうなのか!?」
ノルン「そうよ」
キャットフードの例外法律として、
近隣諸国が虐殺などといった大問題を起こした際の法律がある。
それは大国キャットフードにのみ与えられている一国を裁く権限だ。
この場合、その例外法律が適用される。
そして、その裁判権を持つのが勇者だ。
もっとも、勇者だけではない。
この国の住人達…被害者側にも、意見を述べる時間が与えられる。
ノルン「ま、あれじゃあ死刑も免れないでしょうね。
何百人もの罪もない人を殺しているのだから」
サヤ「…多分ね」
アヌビス「…もし死刑になったとして、誰が殺すんだ?」
ノルン「…そりゃ、勇者でしょ」
アヌビス「因果なもんだな」
ナオヤ「……なんでもいいよ。とっととずらかろうぜ」
サヤ「そういうわけにはいかないの」
サヤ「これが、白銀のバイオリンか…きれいだね」
ノルン「ふふ。このバイオリン、きれいなだけじゃなくて、すごい秘密があるの。
弾いてみて?」
そういってノルンは、サヤにバイオリンを手渡す。
サヤ「…え?でもわたし、バイオリンなんて弾いたことないよ?」
ノルン「いいから。弦を持って、適当に指を動かしてみて」
言われたとおり、サヤは適当にそれらしいポーズをとった。
…何ともぎこちなかったが。
サヤ「…こ、こう?
…って、何これ!?」
サヤはいきなり俺たちの前で優雅に聞いたこと無い曲の演奏を始めた。
アヌビス「おお、うまいじゃねえか!」
ナオヤ「どういうことだ?」
ノルン「それが八音の旋律が伝説になる一つの理由よ。
誰だって、この楽器を持っただけで、この曲だけは演奏できるのよ」
アヌビス「…一体、どういうことなんだ?」
ノルン「…この楽器になんらかの力が宿っていて、それがこの楽器を手にしたものに
演奏をさせている。…んだってさ」
ナオヤ「要するに、これさえあればどんな守銭奴でもバイオリンが弾けるってわけか」
サヤ「だれが守銭奴よ!」
そりゃあ、おまえしかいない。
ナオヤ「…あ、ということはこの曲が…」
ノルン「ご名答。
神話の中に出てくる世界を救う歌、『Memory of Artifact』よ」
サヤ「…」
そうこういっている間に、演奏は終了した。
サヤ「…すごい…」
ノルン「…ね?
『お宝』って感じでしょ?」
サヤ「…でも、思ったより簡単に取り返せちゃったね。ノルンのおかげだよ」
アヌビス「正直、たいしたもんだ」
ノルン「…ぐー…ぐー…」
アヌビス「…寝てる」
サヤ「ふう。でも一安心かな」
ナオヤ「…俺も疲れた。もう寝るな」
サヤ「おやすみ」
でも、その一安心という認識は間違っていた。
本番は、これからだったのだ。




