1章-18 解放
日が暮れ始めていた。
ノルンはトランシーバーらしきものを耳に当てて熱心に何かを聞いていた。
サヤ「大丈夫なの、本当に?」
ナオヤ「心配するなって。もともとたいした事じゃねえんだから」
サヤ「…あのねぇ…」
サヤはほとほと呆れ顔で、おれに向かってそう呟いた。
ノルン「来たよ来たよ!もう今にもキャットフード軍がこの町に入ってくるよ!」
ノルンがいきなりそう叫んだ。
ナオヤ「マジか。思ったより随分と早いんだな」
サヤ「えー!?市街地戦とかになったりしないんでしょうね!?」
ノルン「ならない、ならない。だって一方的にロールスロイスが降伏してるんだもの」
サヤ「そうなの?」
ノルンは無言でトランシーバーをサヤに渡した。
{…引き続き速報です。本日午前6時ごろ汚職と政治の独裁化に対する内部摘発のあったロールスロイス村へキャットフード連合軍が向かう様子の中継です、現場の方どうぞ!}
{こちら現場の○○です。
今連合軍は村の境目を越えてロールスロイス内部に侵入しました。
内部では支配からの解放を喜ぶ住民たちの声が聞かれます}
{住民A:これで抑圧がなくなるのかと思うとほっとします}
{住民B:新しい時代の幕が開けたのです!}
サヤ「ま、マジ!?」
ノルン「よーっし、あたしたちも動くぞ!!」
アヌビス「お、いよいよ大怪盗の息子の俺の出番か。
まかせとけ。この混乱に乗じて八音の旋律を掠め取ってきてやるぜ」
ノルン「返してもらえませんか?私がいない間に勝手に没収されたんですけど」
役員「…話をつけようにも今はそれどころではありません」
ノルン「ふーん。じゃ、ちょっと眠っててね」
ノルンはわずか10秒ほどで見張りをしている役員を全員眠らせてしまった。
サヤ「こんなことしていいの!?」
ノルン「今なら大丈夫だって。便乗犯にしか見えないよ」
サヤ「あ、あのね…」
アヌビス「…俺の出る幕がないんですけど」
ナオヤ「ところで、だ。八音の旋律がどこにあるかは分かるのか?」
ノルン「大丈夫大丈夫。あのバイオリンに発信機つけてあるから」
ノルン「あったー、バイオリン!よかったよかった」
ナオヤ「一件落着…と。さーめしでも食いに行こうぜー」
おれ達は帰路につこうとした。
が。
声「おいてめえら!」
後ろから突然声がした。思わず振り返ると、そこには変な二人組の連中が立っていた。
男「…てめえらか…!?
副市長をたぶらかして青龍様を失墜させようと企てやがったのは!!」
ナオヤ「なんだ、おまえら」
男「おれ達は青龍様に仕える者だ。
この町に害を為す反逆者は…斬る!!」
男は背中の袋から、刀を取り出した。
サヤ「や、やばくない…?」
ナオヤ「たとえ俺たちを斬った所でお前らのボスが終わりなことには変わらないぞ。
無駄なことは止めて新しい政府のプランでも考えようぜ」
手下「…そういう問題ではない!!
我々のメンツにかけて、貴様らだけでも成敗してくれる!!」
男たちは刀を抜いた。
ノルン「…本気で言ってる?」
手下「…当然だ!」
ノルン「ふーん…なら…容赦はしないわよ」
目にも留まらぬ速さでナイフが片方の男の首に突き刺さった。
男の体から力が抜け、ナイフを支えにしてぐったり体が垂れる。
男の首からは鮮血が飛び散り、たちまちのうちに床に赤い水溜りができた。
手下「…な…な…」
サヤ「こ、殺しちゃったの…!?」
ノルン「降参するか、死ぬか、どっちを選ぶ?」
声「ひええええええええええ!!」
もう一人の男は腰を抜かして、へたへたとその場に座り込んだ。
ノルン「みっともないわね…」
アヌビス「…どうするんだ、こいつら」
ノルン「市長と共犯ってことでいい?」
ナオヤ「それがいいな」
男「て、てめえも人殺しで…ブタ箱送りだろうが」
ノルン「え?誰が人殺しって?」
男「てめえだ、このガキ!」
ノルン「わたしは誰一人殺したつもりはないけど?」
男「ふざけんな、俺の相棒を…」
ノルン「それ、ノルン特製の血ノリよ。どう?すっごくよくできてるでしょ。刺さると同時に噴き出すようにセットしてある特注品♪」
男「…」
ナオヤ「この男がピクリとも動かないわけだが」
ノルン「だって強烈な睡眠薬入りだもん」
ナオヤ「…へー」
ノルン「ちょっと血っぽいものを見せて脅かせばこんなものよ」
ナオヤ「…ほんと、抜け目のないやつだ」
敵に回すと一番手がつけられないタイプだ。末恐ろしい。
ナオヤ「これからも、仲良くお願いします」
ノルン「まかせといて♪」
サヤ「…で、どうするの?」
ノルン「私達はもうこれ以上ここに用はないんだし、帰りましょ」
ナオヤ「そうだな」
そしてナオヤ達は一日ロールスロイス村で取り調べに付き合うことになった。
青龍に対する判決は明日にも下されることになった。




