1章-13 折衝
ナオヤ「ああ、お人よしだなあ、俺って」
サヤ「…もし、何も言ってくれなかったらどうする?」
ナオヤ「ちょっと手荒な真似をするしかない」
ノルン「血なまぐさいこと?」
ナオヤ「おれは血はきらいだ」
ノルン「じゃあどうするのさ」
ナオヤ「血を流さない拷問なんていくらでもある」
サヤ「…」そそくさ。
アヌビス「…ちょ、ちょっと離れて歩こうか」
ナオヤ「そのままおれの目の前から消えてくれたら本望だ」
アヌビス「…マジでおさらばしたくなったぜ」
ナオヤ「ほら、そんなこと言ってる間に見えてきたぞ」
サヤ「…あれが村長さんの家…ね」
わらぶきの屋根。村長の表札。
家の横には私有地と思われる田園が。
ナオヤ「その割には随分とちんけな家だな」
ノルン「ほんと。他の人の家と全然変わらない」
ナオヤ「…嫌な予感がしてきたぞ。
一杯食わされた予感がする」
アヌビス「実は村長の家でも何でもない、みたいな?」
ナオヤ「なんだよ!信じてたのに!」
ノルン「まあ、入ってみないとわからないよ」
ノルン「失礼しまーす!」
老人「…誰じゃ」
ノルン「この村の村長さんですか」
老人「確かにそうじゃが、そなたらは誰じゃ。この村によそ者が来るなんて…ありえん」
ノルン「キャットフードからの道が閉鎖されてましたよ。それでも無理やり来ました」
老人「…なんと…だが悪いことは言わん。帰りなされ」
サヤ「え?」
ノルン「なんでです?」
老人「…」
ノルン「疑問に思っていることは色々とあるんです。なぜぷにぷにロードは閉鎖されてたのか?なぜこの村は人っ子一人いないのか、
いても家の中に引きこもって出てこないのか。
あなたなら、その答えを知ってらっしゃるんじゃないんですか?
教えていただけませんか?」
老人「…」
ノルン「…単刀直入に聞きますね。
あの道を閉鎖したのは青龍ですか」
サヤ「…え?」
老人「……」
アヌビス「どういうこと?」
分かっていながら、アヌビスが白々しく尋ねる。
ノルン「外部とこの村を切り離す必要があるのは誰か、って考えると、
この村を統治してる青龍じゃないかな、って。
だから私を襲ってきたあいつらも、青龍に雇われた衛兵みたいなものって考えたら辻褄は合うでしょ」
アヌビス「…でも、なんでこの村を隔離したがるんだ?」
ノルン「…そりゃ、…中でいろいろといけないことをやってるんじゃないの?」
老人「…知らん!」
ナオヤ「たしか、青龍は、選ばれ方に問題があったんだっけ?」
この辺の話は、ロバートから聞いている。
ノルン「そう。
民衆の支持を得るために強引な資金獲得をしたり」
サヤ「要するに権力を金で釣ったって話よね」
老人「わしゃ知らん!帰ってくれ!」
ピー、ガーガー、ピー、ガーガー
突然、無線のような音があたりに響いた。
老人「は、はい!!」
声「村長、彼らを今すぐ捕らえたまえ」
サヤ「な、何!?」
村長「青龍様!」
ノルン「あんたが青龍ね」
声「いかにもそうだよ、ぼっちゃんおじょうちゃん」
ノルン「…あんたは人の家に盗聴器なんかつけてるの?」
声「君たちはもう色々と知りすぎてしまった。悪いが消えてもらう」
サヤ「わ、わ、ど、どうしよ!!」
アヌビス「やっぱり!嫌な予感が当たったぜ!」
声「既に村中に知らせは行き届いているよ。
村の者全員が君たちを追い掛け回し、捕えるだろう。では、さようなら」
ノルン「この…!」
ナオヤ「まぁ、待て。そんなトゲトゲすんなよ。
俺たちは八音の旋律を引き取りに来ただけで、
この村のことやあんたのことなんかどうでもいいんだ。
バイオリンだけよこせ。そうすれば出て行く」
返事はなかった。
ナオヤ「…シカトこかれたか。
そんなに全面戦争にしたいんだったら、おれたちはいくらでも乗るぜ」
村長「悪いが君たち…君たちをやってしまわんと私も危ない…殺させてもらう!」
村長は懐から包丁を取り出した。
サヤ「きゃーっ!!」
ナオヤ「逃げるぞ」
こちらもそう言って、外へ飛び出す。
外に出た…が。
ナオヤ「…へ?」
人、人、人。見渡す限り人。
外にはいつの間にか何百人という人が集まっていたのだ。
それぞれ、みな鍬とかホウキのような簡易な武器を持っている。
ナオヤ「か、かこまれた?んなアホな」
村長「…実は君たちがこの村に入ってきたその時から君たちの行動は筒抜けだった。
だから皆でつかず離れずの距離をとって監視していたのだよ」
ナオヤ「…はあ?観光者に向かってその態度はないでしょ。信じられないよ」
アヌビス「…やばい」
ノルン「…どうするつもり?」
村長「…悪いが、この村から立ち去ってもらうわけにはいかない」
サヤ「最低…」
サヤが俺の手を握ってきた。
ナオヤ「…ちっ…」
だが、どうする?
八方塞の状況から逃れる方法はぱっとは思いつかなかった。
ノルン「…まあ、まかせといて」
アヌビス「どうするってんだ?」
ノルンはズボンのポケットから、小型の銃らしきものを取り出した。
銃口を村民の方へ向け、威嚇射撃のポーズをした。
村民たちが少し怯み、ざわめきだつ。
ノルン「ちょっと手荒な真似するわよ、ごめんね」
アヌビス「お、おいおい!?殺すのかよ!?」
ノルン「ううん」
ぱん
ノルンは空に向けて空砲を一発撃った…
「…がはっ!」
「…!!!」
それと同時に、村の大人たちは、悲鳴をあげたりあげなかったりしながら次々と倒れていった。
「○△×××!??」
子供は平気だったが、突然の大人の変貌ぶりに動揺し気が動転していた。
サヤ「ええっ!?」
アヌビス「ど、どうなってんだ…?」
ノルン「この銃はね…弾じゃなくて衝撃波を放つの。
その衝撃波の波長は大人…正確に言えば成長しきった人間の耳にだけ反応するの。
その名も、アダルトアンテノイザー!」
…
ノルン「すごいでしょ、すごいでしょ」
サヤ「…どうしてそんなの持ってるの」
ノルン「知り合いの科学者の大発明の一つ!すごいでしょ」
サヤ「…う、うん…」
ノルン「…もっとも、エネルギーの充電に時間がかかるから一日に一発しか使えないんだけどね」
ナオヤ「…大丈夫なのか、こいつら」
ノルン「そのうち動けるようになるわよ。それまでに逃げましょ」
通り過ぎようとしたとき、子供たちの一人がこちらを睨みつけてきた。
ノルン「…」
ノルンは何も言わずにナイフを取り出し少年に突きつけた。
「…ひ、ひえええええぇぇ…」
子供はそれで腰を抜かし、へたへたと座り込んでしまった。
ノルン「じゃ、行こうか」
サヤ「さすがノルン!やっぱり頼りになるなー!」
アヌビス「怖くなってきた」
ナオヤ「下手に逆らわん方が身のためだな、ありゃ」
半分呆れ顔で最低が呟いた。




