1章-08 断絶された村
アヌビス{…こんなせまーいテントの中…男と女が二人ずつ…なら考えることは一つ。
14歳ならもうそれなりに知識もあるし、大丈夫でしょ、うひひ…}
どこから取り出されたのか分からない、毛布らしきものを床に敷く。
サヤ「…って、最低と一緒に寝るの~?」
ノルン「大丈夫よ。敷居作っとくから」
ノルンがポケットからリモコンを取り出してスイッチを入れる。
突然テントの布の一部が下に伸びてきて地面に突き刺さり、壁が出来てしまった。
恐ろしいことに、ドアらしきものまである。
アヌビス「…な、なにこのハイテク機械…」
ナオヤ「すげー」
ノルン「音は丸ぎこえなんだけどねー。まあそれぐらいは我慢してね」
壁の向こうから、ノルンの声が聞こえてきた。
横になる。テントの上についていたランプが消える。
真っ暗闇の中でもおれたちは気にせず話を続けた。
サヤ「でも、あの連中一体何なの?」
外の木にロープで何重にも何重にも縛り付けた3人の男のことを指してサヤは尋ねた。
ノルン「どうもロールスロイスへ行こうとしてる人を追い返すのが目的みたいよ。数日前ここ通せんぼしてやがったのよ、あいつら」
アヌビス「通せんぼ?なんでそんな真似してるんだ…?」
ノルン「さあ?
この道通ってたらなんかいきなりけちつけられちゃってね。
『通れません』
『いや、通ります』
『通れませんって書いてるでしょ、お嬢ちゃん』
『通れるでしょ』
『とっとと帰ったほうが身のためだぜ、お嬢ちゃん』
『…』
って」
サヤ「だからそれでノルンが足止めされてて、私達が追いつけたってことね」
アヌビス「でも俺たちはそんなことされた覚えねえけど…」
ノルン「うん。そりゃそいつらもうここにはいないわよ」
サヤ「なんで?」
ノルン「あんまりむかついたからそいつらのキャンプにダイナマイト投げつけてやったの」
アヌビス「…ダイナマイト?
…
ダイナマイトおお!?」
サヤ「殺しちゃったの?」
ノルン「殺してはいない。わたしのポリシーに反するからね」
ナオヤ「なんでそんなもん持ってるんだ!危ないぞおまえ!」
ノルン「持ってたらいざって時に安心でしょ」
サヤ「ノルンは出かけるときにいろんな物をもっていくんだよね」
ノルン「そ。備えあれば憂いなしでしょ」
ナオヤ「そういう問題か!?この人間爆弾!!
いつ爆発するか分かったもんじゃないのに怖くて寝れねえよ!」
ノルン「だいじょーぶだいじょーぶ。暴発しないよう特殊素材の中に入れて保管してるから」
アヌビス「…他に、何持ってるの?」
ノルン「うーん、言い出すとキリないかな」
アヌビス「そんなにたくさんあるの!?」
ナオヤ「そんなにたくさんどこに入れてるんだ?」
ノルン「ひみつ」
ナオヤ「気になる…恐ろしく気になる」
サヤ「…でも、なんで通せんぼしてたんだろ」
ナオヤ「そりゃこの先に入られたくないからだろうな」
ノルン「でもね、これだけじゃないの。
どうも誰かが意図的にこの道を通れなくしているような印象を受けたところがたくさんあったの」
ナオヤ「というと?」
ノルン「なんか有刺鉄線が敷かれてたり、巨大な鉄の門があったりしてね。
全部吹っ飛ばしてきたけど」
アヌビス「一体、どういうことだ?」
ノルン「たぶんね…ロールスロイスを他の町から隔離したい奴がいるのよ」
サヤ「それって…」
ノルン「たぶん、青龍でしょうね。なんでよそ者を入れたくないのかはわからないけど。…たぶん、村に着いたらはっきりするわよ」
ナオヤ「中でいけないことをしているんだろうな」
ノルン「うん」
ナオヤ「でも、変な話だな。だって誰も入ってこない状況でどうやって生活するんだ?
絶対食糧とか尽きるだろ」
ノルン「自給自足じゃない?」
ナオヤ「そんなものは理想論だ。現実的には不可能だよ」
ノルン「じゃあどこからかこっそり食糧の確保をしてるのかもね」
ナオヤ「その食料の調達先は
キャットフードかな?」
ノルン「どうしてキャットフードなの?」
ナオヤ「うわさで聞いたからね。
国交関係とかで逮捕できないんだっけ?」
ノルン「ん」
ナオヤ「ってことは、その青龍って野郎に、
キャットフードがなにか弱みでも握られてるのかと思っただけのことさ」
ノルン「けっこう鋭いのね。
たぶん当たってると思うわ」
ナオヤ「たぶんっていうと?」
ノルン「青龍がロールスロイスの長になった一因として、
キャットフードから巨額の義援金を手繰り寄せたってのがあるんだけど、
これに黒い噂があってね」
ナオヤ「ほう」
ノルン「どうもキャットフードのお偉いさんの一部をゆすって、
無理やり出させたものであろうっていう説があるのよ」
サヤ「どこで噂になってるの?」
ノルン「ごく一部」
じゃ、なんでそれをおまえが知ってるんだよ、と思ったが、口にはしない。
アヌビス「なんか黒い話だな。で、その弱みってのは何なんだ?」
ノルン「それはいろんな説がある。
昔のコネや、一政治家時代の黒い話とか、いろいろ言われてるけど、
確定的なものはないわ」
ナオヤ「ふーん。
でも、そんなどこにでもありそうな話で
一国がゆすられるようには思えないけど…」
サヤ「ロールスロイス村って、どんな村なの?」
ノルン「数年前は別に変なところなんて一つもない普通の村だったんだけど、ここ数年は誰も行ってる人がいないのよね。この山道がやけに険しくなったとかで…たくさんの人が行くのを断念してるわ」
ナオヤ「追い返されるんじゃなかったのか?
おまえが無理やり入っていこうとしてるのであって」
ノルン「そうよ」
サヤ「じゃ、じゃあもうすでに外部から隔離された状態ってこと!?」
ノルン「そういうことね。電話もメールも何一つ通じないらしいよ」
アヌビス「…なんだか嫌な予感がするな。
絶対何かあるぜ」
ノルン「まあ、多分何事もなく済むわけには行かないと思うから覚悟しといたほうがいいかもね」
サヤ「…うーん、大丈夫なの?」
ノルン「まあ私をなめてもらっちゃ困るわよ」
サヤ「それは知ってるけどさ…でも八音の旋律取り返す具体的なプランとかあるの?」
ノルン「ない。まあなるようになるなる」
サヤ「…。なるの?」
ノルン「これまでもなるようになってきた」
サヤ「ノルンのその楽観的な思考回路が怖いよ」
アヌビス「…なんだか不安になってきた」




