1章-07 団欒
それから、俺たちの団欒が始まった。
ノルン「へえー、ナオヤくんってもう働いてるんだ。
すごい」
ナオヤ「ナオヤって名前で呼ばれるのはあまり好きじゃない」
ノルン「じゃあなんて呼べばいいの?」
ナオヤ「最低。
おれを語るときにはそれで十分だ」
ノルン「そういやサヤも言ってたわね。
なんで最低?」
サヤ「最低だから」
ナオヤ「いつの間にか、そう呼ばれていた。
その呼び名をおれ自身も気に入った。
だから、最低」
アヌビス「自分で言うなって感じだよな」
ナオヤ「気に入ってるんだからしょうがないじゃねえか。
それにこの名前だと、おれ、好きなことやりたいようにできるから」
その分嫌われるけどな。最低はそう言って笑う。
ノルン「だからサヤと気が合うのね…なんとなくわかるわ」
ノルンは苦笑いを浮かべながらそう言った。
サヤ「どういう意味よ」
ノルン「で、こっちのアヌビスさんは、盗賊、と」
ノルンは軽く流して、そうアヌビスに告げる。
アヌビス「まあ、まだ見習いだけどね」
ナオヤ「なくこもだまるせかいい…」
口を封じられる。
アヌビス「はははははは…」
墓穴を掘ったらしい。アホだ。
ぎろっと睨まれる。仕方なく睨み返す。
ノルン「何してるの?」
アヌビス「な、なんでもないよ、ははは…」
サヤ「でも、この中じゃ、アヌビスさんが一番年上なんだね」
アヌビス「といってもおれはまだ17だぞ?おまえらは?」
サヤ「わたしたちはみんな14だよ」
アヌビス「………」(絶句)
アヌビス{…ショックだ…なんかこいつらの方が大人っぽいぞ…?
でもまあ見た目は確かにどー見てもそこらのガキだがな…}
ナオヤ「そういうあんただってこの年で各地を転々としてるとか」
ノルン「うん。世界中あちこち旅してきたよ」
アヌビス「マジで?一人で?」
ノルン「うん。でもアヌビスさんも似たようなものじゃないの?」
アヌビス「いや、おれはこれが始めての旅なんだが…」
アヌビスはそういう意味でノルンに妙な親近感を持ったようだ。
ナオヤ「なくこもだまるー」
アヌビス「うるせえ!」
ノルン「さっきから何なの?」
アヌビス「…あーもう、しゃーない。
俺の親父さんはかつて世界中を荒らしまわった大怪盗なんだよ」
ノルン「へー。それであなたも?」
アヌビス「そういうこと」
ナオヤ「なるほど。親の七光りか」
アヌビス「どういう意味じゃ!?」
ナオヤ「わざわざ説明しなきゃならないほど国語力ないの?」
アヌビス「………こいつ…ほんと人の神経逆撫でるやつだな…」
サヤ「そうそう!アヌビスも分かってきた?
最低って呼ばれてる意味」
アヌビス「ほんと最低だな」
サヤ「そうそう。最低」
ナオヤ「べつに、誰に対してもこんな態度ってわけじゃないよ。
からかってて楽しい奴はからかう。それだけのことだ」
サヤ「…ほんと最低」
アヌビス「けっ、そうだそうだ。こんなやつシカトしようぜ」
ナオヤ「うふふ。シカトされるなんて光栄だね。
さすが泣く子もだまる世界一の怪盗は言うことが違う」
アヌビス「………」
アヌビスは唇を噛みしめている。
ノルン「なに小学生みたいなことやってるのよ」
ナオヤ「おれ精神年齢は小学生ぐらいだから」
サヤ「ばーか」
アヌビス「こんな嫌な小学生なんかいてたまるか」
ナオヤ「小学生って大人よりはるかに残酷だと思うんだ」
アヌビス「でもさー、旅してるとやっぱ、変なやつらに絡まれることもあるんじゃないの?」
ノルン「うん。だから撃退用に装備を整えてるのよ」
サヤ「でもさっきはかなりやばくなかった?」
ノルン「さっきは寝るところの準備をしてるときにいきなり襲い掛かってこられたからね…油断しちゃった」
アヌビス「もし俺たちが来なかったらどーするつもりだったんだ?」
ノルン「さあ…泣きまねでもして油断させるかなあ。
まあいいじゃない、済んだことは」
ノルン「で、みんなはどこで寝るの?」
アヌビス「…え」
サヤ「えっと…」
そう言われて初めて、自分たちが寝床の確保をしていなかったことに気付く。
ナオヤ「…泊めてください、お願いします」
ナオヤはそういって頭を下げた。
サヤ「ノルン、ごめんねっ」
ノルン「まったく…旅に出るんだったら寝袋かテントかぐらい常備しといた方がいいよ?」




