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世界で一番君が嫌い  作者: びゅー
プロローグ
2/116

序章② 少女と金


         それから数年





       カニクリーム村


カニクリーム村4番地外れの、村と草原の境目。

そこに、周りの建物と比べると一回り小さくて見劣りする白いコンクリートの一軒家が建っている。

白いコンクリートはちっとも塗装されておらず、ところどころ黒ずみ始めている。

それはこの家が少しばかり年代物であることを感じさせる。

とはいえ、それが風流かといわれると、別にそうでもない。

ごくありふれた父親母親と子一人二人の3~4人家族がこの家に住むとしたならこの家は大きさの点で少し暮らしにくく感じるかもしれないが、今現在この家に住んでいるのは一人の少女とその母親の計二名だった。

少女の名前はサヤ。母親の名前はニケル。

現在の時間は午前7時。この一家の一日が始まろうとしていた。


「サヤ~そろそろお祈りに行く時間よ~起きなさ~い」

母親ニケルがサヤのベッドの横に立って、寝ているサヤに向かって呼びかける。

サヤは寝起きが悪いわけではない。今日はカニクリーム村の行事の一つであるお祈りの日で、サヤはこの日だけ普段より早く起きて教会まで行かないといけないのだ。

「…う~ん」

「…サヤ?」

サヤは体を起こしたが、まだ焦点が定まらず、寝ぼけている。

「お、かね…」


「だあほ!!またあんたはお金の夢見てたの!!」

「…ぅ…ふぁぁぁ…あ、お母さんか…」

「もう7時よ!とっとと起きなさい!!」

サヤ「おはよ~ございま~ふ…」

「まったく…

いつもいつもお金お金お金!そんな汚い女に育てた覚えはありません!」

起きたすぐに、いきなりこんなことを言われた。

何でこうなるの?

まだ目覚めきっていないままで、適当に返事をする。

サヤ「…気持ちいい夢見てたのに~」

「とっとと着替えてお祈り行ってきなさい!」

サヤ「ふぁぁ…めんどくさいな~」


パジャマを着替えて、洗面所で歯を磨いて、居間に下りてくる。

この間わずか5分。

サヤ「そもそもなんでお祈りなんかしなきゃいけないのよ…」

「この村の決まりなの!一週間に一度なんだから我慢しなさい!」

そんなことは知っている。

この村に住む人は一週間に一回、朝早くに村の中央通りの側にある教会に行ってお祈りの儀式に参加しないとならないのだ。

どの曜日に参加するかは、予め決められている。

サヤ「わかってるよ…ふぁ…すごい量の紙幣だったのにな…」

夢の内容がふと頭の中に思い出された。

…もっとも、札束しか覚えていないが。

「まだ言うか」

サヤ「いいじゃ~ん。どうせこの世の中全部金なんだから」

「それはそうかもしれないけど、年相応の願いってものがあるでしょ!彼氏とか、宝石とか、洋服とかバッグとか…」

サヤ「ぜんぶお金で買えるじゃん」

ぶはーっ!!

お母さんは机に向かってずっこけた。

オーバーな人だ。

「なんてこと言うのよあんたは!」

「だって事実」

「そんな事いっちゃったら身も蓋も無いじゃない」

「事実身も蓋もないでしょ」

「あなたにはロマンというものは無いの!?白馬に乗った王子様が迎えに来てくれるとか

紳士な怪盗に突然さらわれ恋に落ちるとか!映画のスターが迎えに来てくれるとか…」

「迎えに来てもらってばっかり。ないよそんなもの」

「ああ…若い子はロマンを持たなきゃダメなのよ…」

サヤ「…はぁ」

だれのせいで、こうなったのか。


食事は10分ぐらいで終了。式の始まりは8時。教会まで歩いて20分ぐらいなので、まだまだ余裕がある。

身だしなみを整え、鞄に適当に詰め込んで、

外出する支度を済ませて、玄関の扉を開ける。

サヤ「行ってきまーす」

「変なおじさんに声かけられてもついていかないのよー」

後ろから見送りの声が聞こえてきた。

サヤ「金額にもよるかな」

「…何か言った?」

サヤ「…いえ、何も」

冗談が通じないのは、致命的だと思う。

あとあと鬱陶しいので、振り返らずに歩いていった。


『どうしてあんたは、いつも金ばっかりなの』

お母さんの声が頭の中でリピートされた。


私はどうも人に言わせると、金にがめついケチ女らしい。

それだけで、同世代に嫌がられることもたまにある。

…いや、けっこうある。

…一円一円を大切にすることの、何が悪いのだろう、とか思うのだが、あまり聞き入れてもらえない。


そもそも、私は昨日今日でこんながめつい女になったわけでもない。

いろんなことがトラウマになって、

世の中全部金なんだ、と

結局こんな結論に落ち着いてしまったのだ。

…。

そのなかでも、一番大きなことは、お父さんのことだ。



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