1章-00 間
ぼくはなぜみんなからいじめられるんだろう?
かんたんだ。ぼくのベクトルとみんなのベクトルが、ちがうほうをむいているからだ。
せかいは、みんなはそのことをきょようできるほど、おおきくはない。
そんなことないよ。
いや、そのとおりじゃないか。
じっさい、ぼくもきみもこのありさまじゃないか。
いじめをするな。
そんなたんじゅんなことばでかたづけられるほど、にんげんはたんじゅんじゃない。
そんなこと、きみだってわかりきっているだろう?
そうだけど、
だったらわたしたちにのこされたせんたくって、
しぬだけしかないんじゃない?
いいや、ぼくはいきるね。
それがせかいにあらがうことになっても?
ああ。
それがせかいをはめつさせることになっても?
ならないよ。
ぼくはせかいをすくいたいから。
わからないよ。
なんできみはそんなせかいをすくいたいのさ。
ぼくはみんながすきなんだよ。
はじめからそれだけなのさ。
きみにはわからないだろうけど。
わからないよ。
サヤ「…わからない」
ナオヤ「何が」
サヤ「最低の考えることがわからない」
ナオヤ「そりゃおまえとおれは違う人間だし」
サヤ「そうなんだけど」
ナオヤ「人の頭の中までほじくり返したくなるのは君の悪い癖だね」
サヤ「そうなんだけど、ああもう、
どうしてそういう言い方しかできないかな!」
ナオヤ「そりゃおれがそういう人間なんだもの」
アヌビス「そういう風にすべて割り切って生きられるのは
ある意味幸せだな」
ナオヤ「ぜんぜん幸せじゃないよ。
報いしか受けてない」
アヌビス「俺もあるいはお前みたいに生きれたら、
さぞかし気持ちいいだろうなって思うんだ」
ナオヤ「おすすめしない。
第一考えてみろ。俺みたいな人間が二人もいたら鬱陶しくて仕方ないぞ」
アヌビス「だから腹立つんじゃないかな、みんなお前見てると。
あんな自由に生きやがって。
そう思うんだよ」
ナオヤ「その代償がどれだけのものなのか知らないんだよ、みんな」
アヌビス「代償ねぇ」
サヤ「まぁ、最低みたいになりたくはないけど、
私たちにはできないような自由な生き方してるから、
最低見てたらなんかイライラする。それだけは確かかな」
ナオヤ「それがすべてだよ。それをおれもわかってるし、みんなも分かってる。
だからおれは最低でいいし、言いたい奴からも好きに言ってもらって構わない」
サヤ「でも、反論はする」
ナオヤ「あたりまえだ。言われっぱなしにならないといけない道理はない」
サヤ「それでかえって反感買う。そのスパイラル。
そんなことばっかりなのよね」
ナオヤ「そうだ。それがおれに与えられた報いだ」
アヌビス「でも、なんでだろうな。
おれはお前のこと、嫌いではない気がするんだ」
ナオヤ「おれはおまえのこと嫌いだよ?」
アヌビス「やなやつだね、おまえ」
ナオヤ「何度も言ってるだろ、おれは最低だって」
ナオヤはさぞかしつまらなさそうに、そう言って上を向いた。
ナオヤ「さて、そろそろ町が見えてきたし、雑談はこれぐらいにするぞ」




