序章⑬ 嫌い
と、村を出て行こうとした矢先だ。
「最低、お前の顔を見るのも今日で最後だな。
そう思うと笑いが止まらないぜ」
「二度と帰ってくんな」
「そのままのたれ死ね。
それがお似合いだ」
失せろ最低!死ね最低!
同年代の友人(笑)たちからの
そんなお見送りが行われようとしていた。
サヤ「ちょっと。これから世界を救いに行く人に対して
それはないんじゃない?」
ナオヤ「おい、サヤ、かまうな」
「あんなヤツに世界が救えると
本気で思ってるのか?」
「頭悪い女だな」
「あんなものはこの村からこいつを追い出すためのただの口実だよ」
「ああ、あの子は
いつも最低に媚びてる取り巻きだからしょうがないよ」
「乞食みたいなものよね」
サヤ「……」
アヌビス「お、おいおい、
女の子にたいしていくらなんでも言い過ぎだろ」
「かばうのか。クズの傍に居る奴もやっぱりクズだな」
「クズどうし魅かれるものがあったんでしょう」
アヌビス「おまえら…」
が、最低が静止する。
ナオヤ「手だしたら負けだよ、盗賊くん。
おれにはおまえらのほうがバカに見える。
クズどうしで魅かれあってるように見える。
おれには」
「……」
そこで、そいつらは後ろを向いて、その場を後にした。
が、聞こえるような大声で、いろいろ言ってきた。
「あいかわらずのキチガイっぷりだな」
「ほっといても、あのビッチもろとものたれ死ぬよ」
「ゴキブリどもが死んだところで世界に何の影響もないし」
「まぁそうだな。サヤと最低とだしな」
「あの女なんか、どうせSEXと飯と金のことしか考えて無いような女だ」
「メンヘラなうえにヤリマンでしょ?女というよりただの豚だな。肉便器」
「最低に体いくらで売ったんだろうね?」
罵声が聞こえてきたが、ナオヤの制止もあり、とにかく無視して進んだ。
サヤ「……」
ナオヤ「あほだね。自分があほだと大声で周りにアピールしている」
サヤは拳を握りしめながら、歩いている。
アヌビス「いくらなんでもひどすぎないか?」
ナオヤ「おれに言い返せないから、いつもサヤを標的にしてるんだよ」
クズどもの考えてることは、簡単にわかる。
サヤ「だから最低についていくのなんて嫌なんだよ」
いつものことだが。
ナオヤ「おれのせいだな。
…悪い」
サヤ「あんなこと……。あんな大声で言わなくてもいいのに…」
サヤは相当傷ついているようだった。
というか、泣きそうだった。
ナオヤ「サヤ」
ナオヤ「悪口とか差別とか、ああいう類、くさるほどあるけど、
あんなの、全部同じだ」
ナオヤ「余計な装飾全部引っぺがしたら
『嫌い』ってだけしか残らない」
最低はそう言った。
汚い言葉。そんなのおれが全部叩き壊してやる。
そう言いたかったのかな、そう思った。
サヤ「……最低」
ナオヤ「あいつらはおまえが嫌いなだけ。
おまえもあいつらが嫌い。それで終わり」
サヤ「うん」
ナオヤ「だから気にするな。
なーんにも意味ないんだから」
サヤ「……そうだね。ありがと」
アヌビス「たまにはいいこと言うんだな」
正直意外だった。
ナオヤ「おれいつもいいことしか言ってないよ?」
アヌビス「あっそ」




