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世界で一番君が嫌い  作者: びゅー
プロローグ
11/116

序章⑪ 神出鬼没

だから、だからこの家は嫌いだ。

いくら名義上は母さんと言ったって、お互いに本当の母親でないことなんか分かりきってる。

だからその結果、妙に気をつかったりしてしまって、距離が空いたまま縮まらない。

ずっと、ずっとそうだった。

いつの日かおれは母さんと大喧嘩をした。

原因は…正直よく覚えていない。

仕事がうまくいかなかったり、職場で子供ってことが原因で苛められたり

同じぐらいの年のやつらに色々言われたり…

色々あったところに、何か、ほんのささいなことが起きてスイッチが入った。

確か母さんが、多分おれの気持ちを逆撫でるようなことを言ったのだ。

…もっとも、おれのほうにだっていくらでも落ち度はあっただろうが。

とにかくそれでおれは切れた。めちゃくちゃ言ってやった。

信じられないくらいひどい言葉が出てきて、自分でもびっくりするぐらいだった。

母さんは泣いた。

もうその時から、おれと母さんとは、“家族”じゃなくなった。

おれ達は“他人”。互いに深くは入り込まない。暗黙の了解でそうなってしまった。

だから、こんな反応、分かりきっていたはずだった。

向こうだって、今更他に何も言いようがないのだ。

そんなこと分かっている。

…分かって…

サヤ「どうしたの?」

…。

家を出たすぐそこに、そいつがいた。

ナオヤ「…なんでもない」

平常心を取り戻す。

自分でも何を言われてもそうダメージを受けない心を

持っていることを自負しているおれだが、

やっぱり傷つくときはある。

正直こういう時は、あまり人に会いたくなかった。

だって、他人に当たり散らしてしまう可能性があるからだ。

サヤ「うちの親は、最低がついてるなら大丈夫だろうだってさ」

ナオヤ「信頼されてるなあ、おれ」

素晴らしい。まぁ、自分で言ってて悲しくなるが。

サヤ「…私が襲われたら、全部最低の責任だからねー。

保険金も支払ってねー。入院費用も支払ってねー」

ナオヤ「やだね。

付添人にはもっと金持ちがいるからそいつにはらわせりゃいいじゃん」

サヤ「あ、それはそうだね」

サヤは無邪気に(それが恐ろしい)そう言った。

サヤ「あと、若いうちは旅しといたほうがいいんだってさ。よくわからないけど」

アヌビス「俺はとっくに準備できてるぜ」

ナオヤ「…一番最後に来たのおまえだろ。じゃ、行くか…しばしさようなら、カニクリーム村」

サヤ「…私は案内だけしたら帰るからね」

ナオヤ「…わかったわかった。とっとと出発しようぜ」


村を出て、その先にある森をしばらく歩いた。

サヤ「ねえ、ナオヤ…あの神の使いとか言う人たちほんとに信用してる?」

ナオヤ「…してるわけねえだろ」

アヌビス「…うさんくさいよな」

サヤ「もし八音の旋律を自分たちで集めるのがめんどくさいから

私達に集めさせてその後で奪い取るっていう意図だったらどうする?」

アヌビス{ぎくっ!}

ナオヤ「八音の旋律自体にはあんまり興味ないから

最終的に誰のものになろうと知ったこっちゃない」

サヤ「…知ったこっちゃないって…」

ナオヤ「願いさえ叶えてくれるんなら、おれにとっては他はどうでもいいよ。

久々に休暇もとりたいって思ってたし。

休暇になるかどうかわからんけど」

サヤ「あ、そう…」

マイダス「嘘ではありませんよ」

サヤ「わっ!!」

ナオヤ「ど、どこから現れた!?」

つけられていたのか?

マイダス「言ったでしょう、私は神の使いだと。だからどこにも自由に現れることができる」

ナオヤ「ふーん…」

またしても胡散臭い返し方だ。

意味が分からない。

なんなんだ、こいつら?

ちょっと試してみようと思った。

ナオヤ「じゃあ質問。神様は八音の旋律を集めさせて何かしたいことでもあるの?」

マイダス「集めさせて何かしたい、というのは逆です。

もともと八音の旋律とは、神が人間の望みを叶えるためにこの地に作り出したといわれる物です」


マイダス「この世には数え切れないほどの願いがあり、

そんなものを全部かなえることはたとえ神様であろうととうてい不可能です。

そこで、神様は条件をつけました。

それが、八音の旋律です」

ナオヤ「…それを集める資質っていうのは、どういうことだ」

マイダス「言葉どおりです。あなた以外に集めることのできる人間は、いないのです」

ナオヤ「なぜわかる」

マイダス「あなたが最低だからです…と言えば理解できますか?」

…。

できるか。

ナオヤ「答えになってない」

サヤ「わたしが言うのもなんですけど、

最低には何もできないと思います」

それは腹の立つ言い方だが、事実なので、黙っておく。

マイダス「神がいちばんよく知っているのです。

わずか6歳にして最低と呼ばれた人間であるあなたのことは」

そんなことを知っていられても、困る。

ナオヤ「だからちっとも答えになってないですよ。

なぐりますよ、おにいさん」

マイダス「頑固ですね」

ナオヤ「今すぐでも聞けるんでしょ?今すぐ聞いてくれませんか。

なぜおれでないといけないのか」

マイダス「だから、あなたが最低だからです」

ナオヤ「…」

だめだこりゃ。

すでに会話にならない。

何でもいいから揚げ足をとってやりたかったのだが、

これではいくら突っ込んだって無駄だろう。

ナオヤ「もう一つ。

あんたは八音の旋律を集めようとは思わないの?」

マイダス「私は神の使いですよ。

あなたたちとは違う立場の人間であることをお忘れなく」

ほう。もうこれ以上、ツッコむ気にもならなかった。

ナオヤ「…まあ、願い叶えてくれるんなら何にも文句はない。

ただし、条件。

俺の願いを叶えない限り八音の旋律は渡さない。いい?」

マイダス「いいですよ。というかそれが当然じゃないですか」

アヌビス{…ねえ、サヤちゃん?あの子、いくらなんでもえらそーすぎじゃございません?}

サヤ{最低はいつもああなの。

大人に対しても目上の人に対しても。

だから最低って呼ばれてるの}

アヌビス{…ふーん、いやなガキだ}

マイダス「…あなたの最低というのは、もはや才能の粋なのですよ。

見える人には、それが見えるのです。

それでいいですか?」

よくない。全然よくない。

だいたいなんだよ、それでいいですか?って。

馬鹿にしているにもほどがあるだろう。

ナオヤ「だーかーらー…もういいや」

アホらしくなってきた。

どうせまた、適当におまえは最低だ最低だと言われ、

なんやかんやと理由をつけて話を逸らされるのだ。

いつものこと。いつものことだ。

マイダス「では、私達はこの辺で」

と、男が去って行こうとして、最後に一言。

マイダス「最後に一言。我々はいつでもあなた方の会話を聞いていますよ。罵ってくださっても別に危害は加えませんがね」

ナオヤ「あんたらのことなんて興味ない」

マイダス「では」

ナオヤ「待った、最後にもう一つだけ」

マイダス「何でしょう?」

ナオヤ「この世界が滅びる…そうだな、あんたらの話によると。もし…仮にこの世界が滅びたとしたらお前らはどうなるんだ?」

マイダス「どうもなりませんね。もともと私達の世界とここは関係ないのです。私がこんなことをしているのは我々の世界にいる、この世界の神に頼まれたからです。これでOKですか?」



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