序章⑩ 旅立ち
「…というわけだ」
こうなってしまったいきさつを説明する。
正直、難しかったけれど。自分なりに噛み砕いて説明した。
「…」
「じゃあ、行ってくるな、母さん」
「…じゃあこれで今日から飯代が一人ぶん浮くのね。ラッキー」
「…人が出て行くというのに、あんたの反応はそんなものか」
「…え?
だいたいあんた最低だし、他にどんな反応をしろというの?」
「…まぁ、そうだな。
悪かった。別に期待してねえから」
「わたしもあんたになんかまったく期待してませんからね。
せいぜい恥かかん程度に帰ってきなさい」
「…おかあさん、いいの?」
「何が?」
「…お母さん、最低兄ちゃんのこと心配してるじゃない、いつでも。
なのにどうして、最低兄ちゃんの前ではあんな感じなの?」
「…いろいろあるのよ」
「…ほんとに、最低兄ちゃん行かせちゃって、よかったの?」
「…私が止めるわけにもいかないでしょ。
そもそも本当の母親ですらない私に。
それにあの子は選ばれたっていうのよ。
そんなあの子が旅立つのに、変な未練残させたくないからね…」
「…そう」
「さ、今夜はハンバーグよ。一人食い手が減ったぶん盛大にご馳走してあげるわ」
「…う…ぅぉぉ…」
「あらーどうしましたお父さん?どこか悪いのですかー?」
「…な…なおや…」
「ナオヤ?ああ、最低のことですね。最低ならもう行っちゃいましたよ。
帰ってこないかも」
「…ぁ、ぁぁ…」
(小声)「こんな時だけ父親風吹かして…あなたのせいでどれだけ最低が苦しんでると…」
「…世界を救う、ねえ。
とても、とてもとてもとてもとても、とても、
そんな柄には見えないんだけど、大丈夫なのかしら、神様?」




