序章① モノローグ
刃向かうつもりは、なかったはずだった。
つまらない中学生程度の反抗精神はとっくの昔に捨てさった。
別段世界に恨みも無かったし、対立することになる理由もなかった。
…はずだった。
そんなつもりは、なかった。
でもぼくは、結果として、世界を裏切った。
かけがえのない大切なものを手に入れて、
それを、守ろうとしただけなのに
たとえば、
―世界を、滅ぼしてやる。
初めに、そう思ったのは いつの日だっただろう?
…。
ああ、あの日だ
なんの、前触れもなく
日常から、絶望へ叩き落された…
夢を信じていた
未来を信じていた
世界を信じていた
ぼくは子供だった
何も知らなかったし、何も疑わなかった
明日が、明後日が、そして大人になるのが
楽しみで楽しみで仕方なかった
ただ、ただ待ち遠しかった
だから、笑っていた
少々の嫌なことがあったって、すぐに立ち直って
次の瞬間には、前を向いていた
―その時は、まだ
…炎
…瓦礫
…煙
…悲鳴
…焼ける咽
―痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
霞がかかる視界
たすけて
だれか、たすけて
動かない手、動かない足
動かない体
苦しくて苦しくて苦しくて
炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎
仰向けのまま担がれていく人達
目に映ったものは 炎 炎 炎 炎
公園もマンションも学校も電柱も
友達の家も、ぼくの家も、みんなみんな炎が覆い尽くしていた
何もかも燃えていく
…今、ここにあるものだけじゃない
思い出も、そして未来さえも何もかも燃えていく
朦朧とする意識の中
すべてを失ったことだけは分かった
頭は働かなかった
でも、ただひとつ、わかったことがあった
…ああ、そうだったんだ
ずっと 勘違いしていた
未来って…こんなものだったんだ
こんなものでしか…なかったんだ
そして、生きる目的は失われた
…でも、生きた。
他の死んだ人のためにも、せめて生きてやろうと誓った
奇麗事なんかいらない
道徳なんかいらない
生きてやる
絶対 生きてやる
…月日が流れて…
人間と人間が、ときには助け合って、
ときには足を引っ張り合って、
そうして成り立っている世界があって、
その世界があったからこそ自分が生きていられるのだ。
そんな簡単なことに、やっと気付いた。
それで、終わったはずだった。