あの日の自分は何と言うだろうか
ピピピピビピピッ!!
午前6時半にセットされた目覚まし時計に手を伸ばし窓の方向に目をやると外はもう明るく、数分置きに信号が変わった音がする
いつものように窓を開け、部屋にこもった空気を外に出すとともに外の新鮮な空気を中に入れる
ボーッとしたまま外を見ると、朝早いのにも関わらず人々はどこかへ向かって歩いていく
ーーーーーまた一日が始まったーーーーーー
春から始めた一人暮らしにも慣れつつあり、いつものように皿にコーンフレークを入れると、勢いよく牛乳を注いでいく
テレビも無いため朝からお気に入りの音楽を聴いてリズムに乗りながら、とっぷりと牛乳に浸されたフレークを口に運ぶ
以前まで朝は基本米しか食べてこなかったのだが、今はすっかりこの味にも飽きてしまった
朝食を食べ終えると学校の準備を始める
それくらいの時間からすぐ近くの小学校から元気な声が聞こえてくる
どうやら校庭で今日も元気に遊んでいるようだ
そういえば自分にもそんな日々があった
朝、授業前に校庭で上級生に混じってドッジボールをしたあの頃
最初はただただ速いボールに圧倒されるばかりであったが、段々と見慣れてきてそのうちさほど差もなくなり純粋に上級生に勝ちたくなる
毎日同級生と特訓をして、家に帰ったらおじいちゃんに相手をしてもらう
十数年が過ぎ、もうすっかりドッジボールなんか出来ない体になってしまったおじいちゃん
そう考えると、はやく大人になりたいと考えていたあの頃がひどく懐かしく思える
ただただ毎日を楽しみ、部活に明け暮れ、先生たちによく叱られ、買い食いをすることに少しの罪悪感と喜びを覚えた中学時代
今でも思い出すと心がポッカリと空いてしまうような、そんな気持ちになってしまう初恋のあの人を今でも鮮明に覚えている
宿題に追われ、勉学最優先で、友達との仲良しごっこは後回し
…そう決意したはずなのに放課後気の合う奴らと他愛もない会話をして笑い転げたあの時間がどうしようもなく楽しくて仕方がなかった高校時代
部活は勉強に影響を及ぼさない程度に
そう考えてたはずなのに部活に行きたくて仕方がなく、しまいには授業中に試合のことで緊張してしまい頭に内容が入ってこない始末
高校を卒業してからまだほんの数ヶ月しか過ぎていないのにもう遠い昔のことのように感じてしまう
現在は高校時代にそれなりに勉強したおかげでそれなりの大学に通っている自分
しかしいったい自分は何が目的で生きているのだろうか
行きたい企業に就職するため、そうは言いつつも周りのできる人たちを見て現実が厳しいことを静かに悟る
何かに夢中になれることもなく、ただただ中身の薄い日常を送る
部活も特に入っていないため休日には家から一歩も出ずに一日を終えることもある
一体いつから自分はこうなってしまったのだらうか
決して輝いていたとは言えないけど、それでも毎日充実した日々を送っていた昔の自分
あなた達は今の自分の姿を見てどう思うだろうか
こんなのは僕じゃないと認めないだろうか
俺はここまで腐ってないと罵倒するだろうか
勉強を頑張ったんだから、しばらくの間は休めよと励ましてくれるだろうか
そのようなことを考えているうちに日は沈む
そこには見慣れたはずの夜空に広がる星々はなく、マンションの光と眩しいほどの街灯の灯り
それだというのに夜はとても暗く、寂しいものに思える
もうすっかり夜だと言うのにパトカーの音がときどき五月蝿い
ふと携帯を見ると、そこには一通のメールが届いていた
ーーーーーーーー 〇〇へーーーーーーーーー
十年前のあなたから手紙が届きました
写真を送るので見てください
母より
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突然のことでしばらくは意味がわからない
そういえばどこかで十年後の自分へ手紙を書くといった催しがあり、それに参加した覚えがある
今から十年前、つまり小学三年生の頃だろうか
あの時はみんなのテレビの話題についていきたくて、自分が所属していた、夜に活動するスポーツ少年団を辞めたくて親に抗議したという記憶がある
果たしてあの頃の自分は今の自分に対して何を思い、何を期待し、どんなメッセージを手紙に込めたのだろうか
別に過去に負い目があるわけではないが、自分で書いたはずなのに見るのが少し怖くなるのは、今を全力で生きていないからだろうか
腐っていく日々を送る自分に彼はなんと告げたいのか
いつまでも逃げていては仕方がないので送られてきた手紙の写真を見る
ーーーーーー 十年後の自分へ ーーーーーー
〇〇くん、べん強がんばっているかな?
大人になってもがんばってね
優しい〇〇くんでいてね
まだお母さんのこと好きなの?
バドミントンで全国大会出たの?
なんでもできる人になってね
〇〇より 2007年5月3日
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期待していた言葉ではない
糾弾されるわけでもない
別に大したことが書いてあるわけでもない
なのに何故だろうか、涙が出そうになるのは
他人にはわからないだろうし、わかってほしいわけでもない
今の自分を責めたてることが書いてないのは当然のことで、今の自分にとって十年前のあなたはとても輝いて見えるように、十年前のあなたにとって自分は未知でひどく希望に溢れているのだから
今改めて自分の姿を見る
すっかり伸びきった髪に、不恰好に生えた髭
十年前のあなたはこんな自分に憧れたのだろうか
変わりたい
変われるのだろうか
ただ、動かなければなにも始まらないのは今の生活をしていて大きく痛感した
動きだそう
何から始めようか
まずはとりあえず、母さんへ日頃の感謝を込めたメールでも送ろうか
そんなことを考えながら夜の風景を見渡す
手紙を読む前とは違って外が何故だか明るく見えるのは、きっと24時間営業の飲食店の明かりのせいに違いない
是非とも高評価お願いします
また同じ作者名で別作品「巡る世界でまた」もありますのでそちらも是非見てください