第2章 親友
小学3年の夏…
ある日の学校の帰り道。
ヒロが 突然 10月にある運動会の為に 特訓をしようと言ってきた。
僕は 『うん!』と呟くと そのまま家に帰った。
夜の8時…
《ピンポーン》
玄関を開けると 学校の体操服姿の ヒロが立っていた。
僕は びっくりして
『何! どうしたん?』と聞くと
ヒロは 焦った顔をして
『特訓!特訓!』
『約束!約束!』
と 僕の手を引っ張った。『このままで いいの!』て 聞くと
見てもらうだけだから いいよ!と ヒロは 強引に 僕を連れ出した。
近くの公園まで走ると
ヒロは 公園の端と端に 靴の爪先で スタートラインと ゴールの線を引いた。
ヒロは スタートラインに足早に行くと
『たくちゃんは 自分が走るの 横から見ててね!』と 声を掛け
何の 合図もなく走り始めた
《ドタドタ ドタドタ》
《ハァ〜・ハァ〜・ハァ〜》
直線で 40メートル位の自作のコースを ヒロは 重い足取りで 駆け抜けて行った。
ゴールに着いた ヒロは 『どうだった?』と 僕に駆け寄る。
返事に困った 僕は
『ひたすら走るしかないと思うよ』と答えると
ヒロは 一言
『わかった!』と言い
それから 何本も何本も 足が “フラフラ”になるまで走った…
ヒロが 特訓してまで頑張ろうと思ったのには 理由があった。
運動会では もちろん
授業で走る徒競走でも いつもビリだった。
特に 運動会では 大差のビリで みんながゴールした後も ヒロだけが取り残され 多くの歓声を受けながら 独りゴールする…
そんな ちょっと切ない… 本人にとっては 悔しい思い出しかないものだった…
見た目に 大きな変化は なかったけど
それでも フラフラになりながら
運動会の前日まで 休まないで 頑張って走り続けた…
10月になり
運動会当日…
秋とは思わせない 真夏のような日差しの中
大きな歓声と共に プログラムは 次へ次へと進む…
《次は 3年生 80メートル走です》
のアナウンスが流れると
5列目に走るヒロ…
最後に走る僕の入った 3年生の列が グランドに 元気いっぱいに 飛び出した…
《パーン》
《パーン》
1列目… 2列目… と 次へ 次へと 走者がゴールしていくと
いよいよ 5列目のヒロの順番になった
スタートラインについた ヒロは 大きくスタートの姿勢をとる…
「位置について・」
「よーい・」
《パーン》
ヒロは スタートから 大きく出遅れた…
その差は 開く一方で みんなゴールすると またしても 大差のついた ヒロが残された…
ヒロは 大きく手を振り
《ガンバレ〜》の歓声を受けながら 必死にゴールした…
ゴールした ヒロは 手をついて その場に崩れた…
上級生に抱えられ 6番の旗の方へ誘導される ヒロの顔は 涙でいっぱいで 本当に悔しそうに見えた…
競技も終わり
グランドから 退場すると 僕は 直ぐに ヒロの元へと 駆け寄った。
ヒロは 退場門を出た所で 棒立ちして 唇を噛みしめて 涙をこらえていた…
『ヒロ』
『最後まで よく頑張ったよ』と 声をかけると
『ごめん… ぜんぜんダメだった…』
『走るの こんなに好きなのに これじゃ 好きって言えないね…』
涙と汗を 手で拭いながら 僕の方を見ると
…
…
速くなりたいな…
…
…
細く呟くと 大粒の涙を流しながら 泣いた…
僕は
『好きな事は 好き』
『いつも 言ってるじゃん』
『結果じゃないよ』
…ヒロを見て 僕は必死だった…
…けど それは 人前で見せた ヒロの最後の涙だった…