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ビリトの手記  作者: 兎角Arle
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ビリトの手記『公暦198年 春の90日目』

01.

そろそろ春も終わり、文の国は四季がはっきりしているので、気温が徐々に上がってきているようだ。

暑いのは少し苦手だ。

先生も、最近はシャツの袖を捲る様になった。


遺跡の調査はまだまだ序盤で、分からないことは山の様にある。

でも、こうやって分からないことを調べるのはとても楽しい。

将来のことはまだあまり考えていないけど、いつか先生の様な学者になるのも良いかもしれない。

なんて。一瞬考えてみたけど、わたしはやっぱり、いつまでも先生の助手で在りたいと思う。

a.


人里離れた遺跡だったというのと、夏に近づき徐々に暑くなってきたことで、ビリトは普段深く被っている帽子を脱いでいた。

胸元に届く長さの銀髪を下の方で二つに結い、街に居る時と違い、中性的な顔がハッキリと伺える。

珍しい真珠色の瞳を煌めかせ、ハルスの横で作業をまじまじと見つめていた。


「・・・ビリト、休憩だ。水持ってきてくれ」

「あ、はい」

小走りに水を持ってくると、ハルスに手渡しながらビリトは首をかしげた。

「何をしてたんですか?」

「この遺跡は移動用の機械が設備されてるようだから、まずはその設備の復旧を試みてる。奥に進む為に必要になるかもしれないからな」

ハルスはそう告げると、上着のポケットから一通の手紙を取り出した。


「もう少ししたら郵便屋が来る。入り口で待っててこれを渡しておいてくれ」

「わかりました。・・・ところで、これって誰にあてた手紙なんですか?」

「・・・・」

黙り込み眉間に皺を作ったハルスを見て、ビリトは慌てて「ご、ごめんなさい」と頭を下げた。

「いや、・・・まあ、いつか会わせてやる」


ふいと、顔を逸らしたままハルスは手紙を押し付けてきたので、何が何だか分からないままにビリトは手紙を持って遺跡の入口へと向かった。

人の手紙を覗き見るのも、詮索しすぎるのも良くない。

自分にだって、言いたくなことはある。

「それでも、気になるものは気になるんですよね・・・」

先生の助手になって5年、思えば彼の出自等については何にも知らないな。と、小さな溜息を付くと、自分の考えに少し気恥ずかしくなり、首をブンブンと横に振った。


「如何したンだい? ビリトくン」

「わあ!?」

突如背後からの声に肩を大きく揺らすと、その人物はケタケタと耳障りな笑い声を漏らした。

「やあ、失礼失礼。首を横に振っていたから、気になって声を掛けちゃったよ」

「ゆ、郵便屋さん・・・」

包帯で目を覆った身長の低い男は八重歯を見せてにっこりと笑って見せる。

「―――っと、その前に仕事仕事。ハルスさンこの奥?」

「あ、手紙ならわたしが預かってます」

「本当? へえ、ハルスさンも忙しいンだね~。ビリトくン、中身見てみた?」


背中から生えた蝙蝠の様な羽をぱたぱたと動かし、ずいっ、とビリトに近づいた。

「み、みませんよ! 人の手紙を勝手に開けるなんてそんなコトいけません!」

「だよねえ。ビリトくンは良い子だ! 良い子!」

郵便屋は受け取った手紙をポーチへとしまいながら、ビリトの頭をポンポンと撫で回した。

されるがままに髪をぼさぼさにされていたビリトは少し俯きがちに「でも、」と。


「―――でも、誰に送ってるのか気になります。いつも聴いてもはぐらかされちゃうし・・・」

「えっ! もしかしてビリトくン、宛先知らない!?」

「はい・・・。5年も先生の助手をしているのにお恥ずかしながら・・・」

「それは多分、恥ずかしがってるンだよ」

「誰に送ってるのかわたしに知られるのが恥ずかしいんですか・・・? どうしてです?」

「そりゃあ、可愛い助手に『実は恋人が居るんだ』なンて、ハルスさンの性格じゃ気恥ずかしくて言えないよ!」

ハッ! として郵便屋は手で口元を覆うけれど、時すでに遅し。

ビリトは呆けたように口をあけたまま固まり、次第にじわじわと顔を赤く染めた。


「こここ、恋人!? はっ! そ、そりゃあ居ますよね!! 先生も、良い大人ですし!」

「ビ、ビリトくン、なにもそンなに動揺しなくても・・・」

「どどどどお、動揺なんてしちぇないでひゅよ!!」

「落ち着こう! 噛ンでる! 凄く噛ンでる! 深呼吸しよう、深呼吸!」

「はっ、はひっ」

郵便屋に言われるままに、2、3度深呼吸をするといくらか落ち着いて来たようで、小さく唸り声をあげた。


「大丈夫? ビリトくン」

「大丈夫です・・・ご迷惑おかけしました・・・」

「ううン。急に変な事言った僕の方こそごめンね」

「・・・冷静になって考えてみれば、さっき先生が、いつか宛先の方に会わせてくれるって言ってたんですよね・・・」

「え? ・・・・・彼女に会いに行くって?」

「いつになるかは分からないんですけどね」


苦笑するビリトの顔をじっと見つめると、直ぐに顔を逸らす。

「彼女に会うのは良いと思うけど・・・。・・・ビリトくンは精霊には会わない方がいいと僕は思うけどな、何考えてるンだハルスさン」

「? 何か言いました?」

「ンーや。大したことじゃないよ。―――って、ちょっと長話しちゃったね! 僕はこれで失礼するよ」

「あ! はい! いつもご苦労様です」

忙しなく駆け出す郵便屋を見送り、ビリトは大きく手を振った。

郵便屋は地を蹴飛ばし背中の羽をはばたかせ空中を飛び、叫んだ。


「特殊郵便専門郵便屋、またのご利用お待ちしております!」


蝙蝠の鳴声と共に、郵便屋の姿は一瞬にして虚空へと消えたのだった。

02.

先生が何か手紙を書いていたので、調査の定期報告を珍しく手紙にしているのだろうかと思ったら、

驚いたことに先生が描いたとは思えない様な甘い・・・(これは書かないでおくことにする)。


そういえば前にも、こんな手紙を書いていたことがあった。

先生に聞いても言葉を濁してしまうので、今回は郵便屋さんに尋ねてみることにした。

すると、その手紙は先生の恋人さんにあてたものだそうだ!

そのことを知って、ほんの少し、今回ばかりは自分の知的好奇心が酷く無粋な物だったと反省した。


それにしても、先生の恋人さんとは、いったいどんな人なのだろう。

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