ビリトの手記『年代不詳a』
a.
「大分綺麗に字が書けるようになったな」
「・・・」
ハルスは手帳のページいっぱいに書かれた字の羅列を見て感想を述べる。
長い銀髪の子供は俯き黙ったまま。
「思った以上に呑み込みが早いな・・・」
子供に聴こえないようにつぶやいた心算だったが、聞こえていたようで両手で自分の服をぎゅっと掴んだ。
「ご、ごめ、なさい・・・。いっぱい、紙、無駄にして」
「無駄じゃない」
「あっぅ、ごめん、なさい」
間違ったことを言ってしまったと思ったのか泣きだしそうな顔で謝る。
その姿に「やれやれ」と眉間を抑え、不器用な手つきで頭を撫でてやる。
そうすると最初は戸惑っていた子供も、何処か安心したように表情を和らげ、ハルスも安堵した。
「その手帳はお前にやる。好きに書いていい」
「でも・・・、まだ、全然、上手くかけなくて・・・」
「誰だって最初は下手だ。だからこれで練習すればいい」
押し付けられた手帳を見つめ困っていたけれど、少し嬉しそうなのが伝わってくる。
「あの、何を、書けば・・・」
「なんでもいい。――だが文章の練習もした方が良いな・・・」
「文章・・・。難しそう・・・」
「・・・毎日の記録を書いていけ。分からないこと、知りたい事があれば俺に聴いて、そこに書きとめるといいだろう」
「き、きろく、って、なんですか? かき、とめるって?」
「・・・・・・」
真剣に問うその姿に思わず黙る。
そんなことも知らずに育ったのかと、この子が可哀そうになった。
「記録は、今お前が思っていることや、起きた出来事を、文字に残すことだ。書きとめるというのは、簡単に言えば書くって言うことだな」
説明を聞き終ると、ハッ! とした表情で直ぐに手帳にそのことを書きこんでゆく。
たどたどしい文字を見せる様に手帳を前に突き出し、ハルスの顔色を伺う。
「そういう事だ」
「・・・はい!」
早速に何かを書きだしたのでハルスはそれを覗き込む。
まだ語彙が少ないせいか抽象的な言葉ばかりで良くわからない内容。
けれどそれを真剣に書くその子がとても楽しそうで、ハルスは微笑んだ。
01.
すこし かみ を きった。
あたらしい ふく もらった。
あったか くて こころが ふわふわする
きのう も その まえ も ずーと ふわふわ
むねが いっぱい で じんじん する
きょう も しあわせ
02.
いたいの いや
せんせいが たすけてくれた
びゅーん て め を あけたら
て を にぎって くれた
なでて くれた
きょう も しあわせ
03.
せんせいが わたしの こきょう きになるって
いつか おうちにかえって いっぱいねたい
ぎゅうって してもらいたい
おとうさん と おかあさん あいたいよ
かえれるまでは せんせいが わたしの おとうさん で おかあさん だって
せんせいと こきょう いっしょにいきたいな
きょうもしあわせ




