ビリトの手記『公暦200年 春の44日目』
01.
久しぶりの街は何だか不思議な感じがした。
こんなに長く街を離れた調査は初めてだから、次はいつ頃来れるのだろうかと思うと、少し名残惜しい。
今回は今までの調査のまとめを送る為に街へ来ただけで、用事がすんだら直ぐに遺跡に戻った。
先生もわたしも魔法が使えないので長距離の移動は少し大変だ。
歩き続けて遺跡に付いたのはもう真夜中だった。
遺跡調査も体力を使うけれど、それとは別の体を沢山動かしたことによる疲労は懐かしい。
今日は、もう今すぐにでも眠れそうだ・・・。
a.
久しぶりの街の喧騒に、足取りが軽くなる。
騒がしいのはあまり好きじゃないけれど、時々こうして人々のざわめきを聴くのは自然と気持ちが昂る。
すたすたと先を歩くハルスを駆け足で追いかけると、心地よい風を感じた。
運び屋と描かれた洒落た看板のかかる店の前で止まると、ハルスは外で待っているようにと言い、中に入る。
一人残され、澄んだ青空をぼんやり眺める。
「あれ? ビリトくン?」
耳障りなその声にビリトも不思議そうな顔を向ける。
「郵便屋さん? どうしたんですか?」
「それはこっちの台詞だよ! ハルスさンはいないの?」
この人混みの中、目を隠したままでどうやって見分けているのかは分からないが、郵便屋はビリトの隣まで来た。
「先生は今、中で手続きをしてます」
「ああ・・・。調査の定期報告だね。いつもみたいに僕に頼めばいいのに」
拗ねたように口を尖らせる。
ビリトは弁解するように、慌てて口をはさんだ。
「今回は資料も多かったので・・・。でも! 後で別の手紙を頼む為に呼ぶ心算だったんですよ!」
「別の手紙ねぇ。うン、いつものアレだろうなあ」
アレ、とは前も話していた恋人へ宛てた手紙のことだろう。
そのこともやっぱり気になるけれど、ハルス本人が教えてくれるまでは聞かないようにしようと、話題を戻した。
「それで、郵便屋さんはどうしてここに?」
「ン? ええっとね、仕事でこの街に来て、今丁度帰る所だったンだ。でも折角だからちょーっと街の観光をね」
「この街って、観光するような場所ありましたっけ?」
「街見て回るだけでも観光気分だよ! 人もいっぱいで、少し疲れるけど面白い!」
楽しそうに語る横顔が正直少し意外だ。
郵便屋はワーカーホリックな所があったので仕事が終わったらすぐに別の仕事をするのだろうと思っていた。
勿論本人にもその自覚はあって、これを言えば肯定するのだろうけれど、ビリトは言わなかった。
「そうですね。わたしも、その気持ち分かります」
「ずうっと此処に居たら目回っちゃいそうだけどね」
「はい」
郵便屋の耳障りな笑い声につられ、自然とビリトも笑みをこぼす。
そのまま世間話を続けていると、店の中からハルスが出てきた。
「郵便屋か」
「どーも! ご無沙汰でした、ハルスさン」
「呼ぶ手間が省けてよかった」
言いながら上着のポケットから一枚の手紙を取り出す。
丁寧に受け取ると、ずいっ、と顔を近づけて「次からは資料の配達も、是非ウチに!!」と言った。
若干引き気味に、「ああ」と返すと、満足そうに胸を張り手紙を仕舞った。
「それじゃ、早速届けてきますよ」
「もう行っちゃうんですか?」
「うン! 速くて安全、ついでに“特別”なのがウチのモットーだからねー」
「その分値は張るがな」
「ははっ、そりゃそうですよ。じゃなきゃ割に合わない」
八重歯を見せてケタケタ笑うと、手を振りながら何時もの決まり文句を言う。
「特殊郵便専門郵便屋、またのご利用お待ちしております!」




