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パーサニファイ ③

太平洋上の会場からは各国へは高速リニアモノレールが設置されており、三人の住む日本までは僅か30分程度で移動することが出来る。

むしろ、日本国内を自宅のある北海道まで移動する方が時間かかるくらいだ。

よって三人は、今、リニアモノレール日本駅から20分程度の場所にある皐月の別荘に寝泊りしていた。

三人は、リニアモノレールを降りてからバスへ乗換え皐月の別荘へ向っていた。


「はぁ~お腹減ったなぁ~。」


さっきから琴鼓の腹警報は鳴り続けていた。


「今日のお夕飯は、中華料理との事です。琴鼓ちゃんの為に沢山用意しておくように申し付けてありますよ。」


皐月が琴鼓に微笑む。


「やったー!炒飯、餃子、シュウマイ~!」


琴鼓がはしゃぐ。

華凛も乗り出し皐月に「ザーサイ入り春巻きは?」と尋ねる。

もちろんとばかりに皐月が頷くと、華凛と琴鼓はハイタッチをして肩を組み、中華料理の名前に謎のリズムを付けて歌い出した。

それを見ている皐月がお腹を抱えて笑う。

普通考えれば、これだけ騒げば運転手に怒鳴られるものだろうが、そうはならない。

なぜなら、このバスは皐月専用バスだからだ。

お気づきの方もいらっしゃるだろうが、皐月の家は大金持ちだ。

そして皐月は、その大金持ちの家を、一代で築いた父親が経営する日本最大手であるロボットソフト会社『白川グループ』のご令嬢なのだ。

さらに言えば、皐月は、プログラミングのエリートばかりが集まる会社の中でダントツのトップ。

幼少期より神童と呼ばれていた彼女には、現在学生の身分でありながら全世界からスカウトがかかっている。

ようするに、琴鼓は余計な事をしなければ確実に素晴らしいロボットの演技が出来たはずだったのだ。


「あ!そうだ!」


突然皐月がパンッと手を叩き、二人の踊りを止めた。


「どうした?」


華凛が尋ねる。


「『舞姫』のね。」


皐月はそう言いながらカバンから何かを取り出し琴鼓へ手渡す。


「メモリースティック?」


琴鼓は、可愛らしいデコレーションが施されたメモリースティックを見詰める。


「うん。それで『舞姫』のプログラムを上書きすれば大丈夫だよ。」


どうやら、琴鼓がめちゃくちゃにしたプログラムを修正する為の物のようだ。

一体いつそんな物を作ったのか不明だが、天才皐月ならちょっとした暇に作ることも可能だろう。


「わー!ありがとう皐月ちゃん!」


琴鼓は、そのメモリースティックを衣類のポケットへ入れようとして、手に当たる何かに気付く。

そっとそれを引き出すと、それはララから貰った名刺だった。


「あ!あんた!こんなもの貰ってきたの?さっさと捨てちゃいなよ。」


目敏く見つけた華凛が素早く琴鼓から名刺を取り上げる。


「わ~返して~。」


琴鼓が慌てて何度も取り返そうと試みるが、華凛は素早く避け続ける。


「琴鼓ちゃんはどうするつもりなの?ロボットチームに入るの?」


皐月が尋ねる。


「う~ん・・・どうしようかな・・・。」


琴鼓が考え込むと、素早く華凛が琴鼓の頭を叩く。


「痛ッ!も~華凛ちゃん何するのさ。」


琴鼓が口を尖らせる。


「お馬鹿!あんたどうせ同情とかしてんでしょ?」


華凛が琴鼓に詰め寄る。


「だって、ララさん嘘はついてないよ!すごく真剣な目してたもん!」


華凛から逃げ、皐月の後ろに隠れながら琴鼓は反抗する。


「嘘とか真剣とかじゃないの!あんた自分の実力分かってる?一回戦敗退!たった一回も勝ててないじゃないの!」


華凛がすかさず琴鼓を追い皐月の後ろへ廻り込む。


「あれは、ちょっと失敗しただけだよ~・・・次は絶対大丈夫!」


琴鼓は再び華凛を逃れ車両の奥へと逃げる。


「琴鼓!」


追い詰めた華凛が琴鼓の両肩を掴む。


「どんな業界も、生半可な考えじゃやっていけないの!あんたやさっきの女みたいに感情論だけでなんとかなるなんて世の中ナメてんじゃないわよ!やってみたいな~程度の人間なんて腐るほどいるんだよ!知識も技術も無い奴に出来る事なんて無いの!」


琴鼓の肩を掴む手に力が入る。


「だから・・・。」


琴鼓が呟く。その雰囲気に華凛の掴む手が弱まる。


「だから頑張りたいんだよ!みんな技術も知識も無いとこから頑張るんだもん!私だって頑張れば出来るもん!」


琴鼓が食って掛かる。


「はぁ~・・・。」


華凛が琴鼓の両肩を離し、大きく溜息をついた。


「分かったよ。あんたがあたしに反抗するって事はこれ以上何言っても聴きゃしないもんね。」


華凛が苦笑いしながら皐月に目配せする。

それに気付いた皐月もニッコリと微笑む。


「華凛ちゃん・・・。」


琴鼓が笑顔になる。


「言っとくけど、あのララって女の事は信用してないからね。いい?それに、一人で行かないこと!あたしもついて行くから、慌ててすぐ行くんじゃないよ?」


そう言いながら華凛は人差し指を琴鼓の鼻ギリギリまでつきつける。


「私もご一緒しますね。」


皐月がニコニコと言う。


「もー。一人でも大丈夫だよー。」


子供扱いされた琴鼓が口を尖らせる。

それを見た華凛と皐月は目を合わせ思わず吹き出した。

そうこうしているうちに、バスは白川別荘へ辿り着いた。

夕飯が待ちきれない琴鼓は一番にバスを飛び出し別荘内へ向った。

残された二人が琴鼓の後ろ姿を見つめている。


「華凛ちゃんは、琴鼓ちゃんに甘いね。」


クスクスと笑いながら皐月が言う。


「あんたもそうでしょ?」


華凛が微笑み返す。そして、視線をスッと落とす。


「あたしたちも今年でもう16歳だ。やっとあの子に笑顔が戻ってきたんだもん。甘くもなっちゃうよ。」


華凛が静かに言う。


「あれからもう・・・ううん、やっと6年経った・・・かな。」


皐月はそう言うと空を見上げた。

読んでいただき有難うございます。ロボット物なのにロボットがまだ登場してません・・・。もう少しでバーンと登場します。次話も読んでいただけたら幸いでございます。

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