パーサニファイ ①
こちら不定期更新作品ですがよろしくお願いします。
盛大な開会式を終え、5日が過ぎていた。
第一部門「バラエティ」はトーナメント2回戦まで終了。
いよいよ3回戦目が本日の午前10時より開始する予定になっている。
一方、藤林琴鼓は好物の白玉ぜんざいにスプーンを突き刺したまま項垂れていた。
ここは、会場内に設置された多くの飲食店の一つで、女性に大人気の甘味処である。
「あー・・・・。」
琴鼓がそう溜息をつくのは来店してからすでに10回以上だ。
机に向かって吐いた溜息は跳ね返り彼女のセミロングをなびかせる。
「いい加減にしてくんないかな・・・。」
目の前に座っている友人の天地華凛が言う。
ショートカットが良く似合う彼女は、どうやら言いたいことをズバズバ言えるタイプの様だ。
「うーん・・・。はぁー・・・。」
琴鼓が溜息混じりに答える
「あんたねぇ。いつまでも落ち込んでんじゃないわよ。あんたの大会は3日前に終わりました。いい負けっぷりだったんだからそろそろ気持ち切り替えな?」
結構な言い方である。
当人に悪気は無いのだろうが、顔をゆっくり上げた琴鼓の目には大粒の涙が今やこぼれ落ちようとしていた。
琴鼓が出場したのは今年が初めてで、もっとも出場者数の多い『バラエティ部門』のトップバッターだった。
彼女の愛機『舞姫』は、中型で手作り感満載の女性型ロボットだ。
演目は日本舞踊。
彼女の実家が古くから日本舞踊を教えていて、彼女自身も幼少の頃に祖母から教えを受けていたのだ。
「華凛ちゃんひどい~・・・。」
琴鼓が言う。
「あ~もう泣かないでよ。やるだけやったんだから仕方ないじゃん。今更どうしようも無い事でウジウジすんのは三十分だけでいいの!3日間も落ち込んでるなんて時間が勿体無いよ。」
言いながら真直ぐ人差し指で琴鼓の顔を指す。
「だけど~・・・あんなに頑張って作ったのにぃ。」
そう言うとまた項垂れた。
「そりゃ頑張ったよ?アタシも相当手伝ったんだからね!」
「だから甘いものおごるって言ったじゃ~ん。私、朝8時から並んでるんだからね。皐月ちゃんがここの抹茶パフェが美味しいですって言うからぁ。」
琴鼓がふて腐れた顔で、華凛の隣に座り、我関せずと抹茶パフェを満面の笑みで頬張っている白川皐月に言う。
「ふぉっふぇもおいふぃいえす。」
とっても美味しいですとのことだ。
ロングの髪にユルフワパーマをかけている彼女は、おっとりとしたマイペースで3人の中ではいつもブレーキ役だ。
おっちょこちょいの琴鼓が何かしでかし、気が強い華凛が暴走し、おっとりとした皐月がそれを柔らかく受け止めるという流れだ。
「皐月もこのズルズル小娘に言うことないの?あんただってプログラミング手伝ってたじゃない?手伝うって言うか・・・全部やってたよね?」
華凛が言う。
「私は、抹茶パフェ食べれたから言うことありません。」
皐月のニコニコ笑顔に華凛はお手上げのポーズをとって見せた。
「あまい!皐月はあまいなぁ。プログラミングしたのあんたなんだから、あの動き可笑しいと思わなかった?」
華凛が呆れ顔で言う。
「はて?なにか変でした?」
スプーンをくわえたまま小首を傾げる皐月。
「わわわ!華凛ちゃん内緒内緒!」
慌てる琴鼓に、華凛は意地悪そうな笑顔を返す。
「あれねぇ、琴鼓が調子こいてプログラム書き換えちゃったのよ。」
頬杖を付いた華凛がフーと溜息を付く。
痛いとこを言われた琴鼓はテーブルの下に顔を隠してしまった。
華凛は、皐月の驚き、もしくは呆れた声を期待していたが彼女は無反応だ。
「あんた、一緒に観てたよね・・・。」
まさかと思い華凛が尋ねる。
コクリと頷く皐月。
「あれで気付かないあんたが怖いわ・・・。」
華凛が苦笑いをする。
「琴鼓。隠れてないでアレはなんなのか説明してあげな。」
えー、と言わんばかりの顔で琴鼓が顔を出す。
「水芸・・・。」
下唇を出し、ボショボショと呟く。
「アレが?」
華凛が追い詰める。
「水がさ!バーって出てさ!雨みたくなったら虹が出るんじゃ・・・ないかなぁって。」
大げさに手を広げてみるが華凛の冷たい視線に身を小さくする。
「それがなんで観客席に直撃するわけ?だいたい扇からは桜吹雪を出すんだったはずよね?」
華凛がさらに詰め寄る。
「うん、でもなんかインパクトがあった方が良いかなぁって思って・・・。」
そう言って琴鼓は上目遣いで華凛を見つめる。
「インパクト有り過ぎでしょ!舞の途中でいきなり観客席に水鉄砲なんて失格にならなかっただけましよ。」
華凛が身を乗り出し、琴鼓のおでこを小突く。
数ヶ月前、出場準備中の段階では演目の中盤に、ロボットの持つ扇子から桜吹雪を噴出し、その舞い落ちる花びらの中、優雅に舞うという予定だった。
ところが、大会前日、ロボットの着物の着付けを華凛に手伝ってもらい、頭グラグラになるまで作業をした結果、終わったのは真夜中。
若干ナチュラルハイになった琴鼓が「良いこと思いついた!」とばかりにロボットに2つ装備されていた花吹雪のタンクを一つ空にして水を入れ始めた。
華凛の静止も聞かずに今度は、せっかく皐月に作ってもらったプログラムをいじくり始め・・・
大会に至ったということだ。
「上手く行くと思ったんだけどなぁ。あんなに勢い良く出るなんてねぇ・・・」
他人事の様に琴鼓は遠くを見つめる。
「あんた学校でプログラミング学科の成績悪いでしょ。この際、皐月に全部オートで出来るように頼んだら?手動で動かすから咄嗟の時にパニクって水鉄砲を振り回すような事になんのよ。」
溶けかけた抹茶アイスをかき混ぜながら華凛が言う。
「ダメ!」
突然、琴鼓がいきり立つ。
驚いた二人がポカンと見つめる中、さらにテーブルをバシバシ叩きながら琴鼓が熱弁し始めた。
「ダメだよ!それは絶対ダメ!いい?華凛ちゃん!人の手や足を動かすのは何だと思う?」
琴鼓が華凛を指差す。
「え・・・脳みそ・・・。」
華凛が答える。
「違うよ!人を動かすのは『心』だよ!いい?人を動かすのは『心』。じゃあロボットを動かすのは何?それは『人』!『人』はロボットの『心』なんだよ!」
バン!
ガシャン!
琴鼓がそう息巻くと同時に店内にテーブルを叩き食器がぶつかる音が響き渡った。
だが、琴鼓が出した音ではない。
明らかに琴鼓の熱弁に対して鳴らされたその音に琴鼓が焦って席に座る。
「ねぇ・・・私うるさかったかな?」
小声で二人に尋ねる。
「まぁ・・・ちょっとね。」
華凛も小声で答える。
「誰か怒らせちゃったかな・・・。」
音がしたであろう方向をテーブルから乗り出しそっと見てみる。
どうやら1席離れたテーブルに座っている人物が音を出した正体の様だ。
琴鼓からは後姿しか見えないが、衣類や被っている大きな帽子からすると女性の様だ。
肩を震わせ、力任せにスプーンを握り締めている様子を見ると相当怒っている。
彼女の周りの客も横目で様子を伺っているところを見ると、やはり彼女が音を出した正体に間違いない。
すると、彼女がすっくと立ち上がった。
「わわわ、どうしようこっち来るかも!」
琴鼓が泣きそうになる。
「え?ちょっと五月蝿かったかも知れないけど怒るほどの事じゃないでしょ?」
華凛が眉をひそめ言う。
皐月も不安そうな顔をしているが未だにスプーンを加えている様子だと二人に行動を合わせているだけの様だ。
そうしているうちに、その女性はクルリと振り返りゆっくりとこちらへ向ってくる。
少し前かがみな状態のため、大きな帽子と前髪に隠れ、表情は見て取れない。
そして、女性は琴鼓達の座るテーブル前で止まる。
読んでいただき有難うございます。次話は来週投稿予定ですのでよろしくお願いします。