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始まりのファンファーレ ④

「さて、それでは大会まで残り1時間と迫りました!続いてのコーナーへと参りましょう!ここでビッグなゲストをお呼びしております!昨年度シューティング部門優勝者ラナン・キュラスさんです!」


甲斐とスタッフの盛大な拍手の中、白みがかったブロンドで長身の男が笑顔を振りまきながら登場した。

鼻筋の通った顔立ちは如何にもモテそうな雰囲気をかもし出している。

切れ長の赤みがかった瞳は、その笑顔とは裏腹に鋭かった。


「ようこそおいで下さいました!いゃ~ラナンさん、いきなりですが今年のコンディションはどうですか?もちろん優勝を狙っていると思いますが!」


甲斐の問い掛けに、一度も目を合わせることなく相変わらず不敵な笑みをカメラに向けたまま話し出す。


「私のコンディション?そんなの聞いてどうするの?悪い日なんてないよ。私が私である以上いつでも最高なのさ。優勝は私に付いてくるものだから当然今年もこれからも私が存在し続ける以上私と共にあり続けるよ。」


髪を掻き揚げながら話すその姿はナルシストそのものだった。

マイクを向けていた甲斐の表情からは面倒くささが感じられた。


「さ、さすがゴールドフェザーラナンさんですね!」

「はっはー。止めてくれよその呼び名。恥ずかしいだろう?」


ラナンの鼻が少し高くなった気がした。


「戦場に舞い落ちた一枚の金色の羽根・・・。美しいその羽根は儚くも眩しい光を放つのさ。誰もその羽根を取る事は出来ない・・・。美しすぎるのは罪かい?」


アゴをクイと上げる仕草で、多くの女性ファンが狂喜し悶え倒れた。


「それでは、ラナンさんと一緒に第3部門シューティングのルール説明と見所をご紹介いたします!」


甲斐が仕切りなおした。

画面には「第3部門シューティング」の文字が表示され、「グ」の濁点が打ち抜かれる。


「この部門はその名の通りシューティングです。年齢・性別は不問。第2部門と同様に専門的な技術が必要となりますが、危険なレースと違い実戦経験は不問です。1対1の対戦方式ですが、相手への攻撃など戦闘行為は違反となり即失格です。勝敗は、多くの的をどれだけ正確に打ち抜くかで決まります。的1つにつき10ポイント、的の中央にある印のみ正確打ち抜くと30ポイントとなり、的の総数は600枚なので、すべて打ち抜けば最高で1万8千ポイント獲得となります。」


甲斐は一息つくとラナンへ体を向けた。


「え~・・・ラナンさんのロボットが装備している銃はオートのスナイパーライフルですよね?ボルトアクションに比べると速射に長けているが射撃の精度が落ちると聞いています。しかし、前大会でのラナンさんが打ち抜いた的の95%が30ポイントという驚異的な成績なんですが、何か秘訣とかってあるんですか?」


やはりラナンは目を合わせずカメラだけに微笑み鼻で笑う。


「君はまたどうして愚問をするのかな?私は一度も狙って撃ったことはないよ。精度がいいのはすなわち私。あとは、素早く撃てればいいのさ。」


ラナンの自己陶酔した目が遠くを見つめる。


「ラナンさんは今年注目している選手とかはいらっしゃいますか?」


甲斐が問う。

再び「フンッ」と鼻で笑うとラナンは軽く首を横に振った。


「私としては今年初出場の吉田源選手と搭乗ロボット『与一』がなかなか面白いんじゃないかと思うんですが。吉田選手は数々の大会で賞を獲ってますし。」

「ああ、あの弓使いだね。和を基調としたロボットは美しいとは思うよ?まぁ私の『エルドール』には敵わないけど。それに、射撃の腕は良いけどあの速度だと彼が1枚打ち落とす間に私なら100枚以上はいけちゃうね。」

「なるほどなるほど。それでは・・・やはり前大会でも苦戦されたインゴラム・バスーン選手とその搭乗ロボット『ビッグ・ジュエル』はどうですか?」

「嫌いだ。」


質問を終えるとほぼ同時にラナンが答えた。

今までの笑みは無く、あからさまに嫌悪感を出している。


「はは・・・。だいぶ苦戦されていた様ですからね。『ビッグ・ジュエル』の持つハイパーショットガンの火力は凄いですよね。一撃で100枚を吹き飛ばすほどの広範囲に亘る巨大なショットガンは実に見ものです。」


そう言ってラナンの顔を見た甲斐の顔が引きつる。

ラナンは、テレビ放送には耐え難い顔をしていた。


「ああいう奴を私は許せないね。美しさの欠片もない。」


ラナンはそう吐き捨てて口を閉ざした。

そして、そのまま歯切れの悪い感じのままゲストコーナーは終了した。


開会式まであと1時間と迫りスタジオでは巻きのサインが頻繁に繰り返されるようになっていた。

番組司会を7年と大会日本中継実況3年続けて来た甲斐にとってこれ以上無様な番組にする訳には行かない。

甲斐は、深呼吸をして勢い良く最後の部門紹介へと移った。


「さぁさぁさぁ!大会を締めくくる最後の部門。皆さんお待ち兼ねの熱い部門。『バトル部門』のルール説明をいたします!」


画面いっぱいでCGのロボット達がぶつかり合い、その火花が『バトル部門』の文字を作り出した。


「この部門は、年齢性別経験不問。一対一で戦い、選手達のその腕とロボットの性能を競い合う部門です。トーナメント形式、1ブロック8名の全8ブロック64名で行なわれます。今大会応募総数1000を超える人数の中から3ヶ月前に行なわれた予選において上位49名までの選手が参加権利を得る事が出来ました。残り15枠は、本大会各部門上位5位入賞者に与えられます。なお、辞退者がいる場合には繰り上げで予選参加者に与えられる事になります。対戦するロボットに規制は無く、大きさや武器の種類など全て選手の思い通りなんです!ただし、コックピットなど操縦者に危害を加えるであろう攻撃を行なった場合は協議の上失格となる場合がございますので各選手達はルールに則って正々堂々と戦って頂きたいと思います。それでは開会式までの残り時間あとわずかとなりましたが『バトル部門』注目選手を一挙ご紹介致します。いったんCMです!」


CM明けスタジオでは注目選手の等身大パネルがいくつか用意されていた。


「さぁ、こちらズラッと並んでおりますのが、今大会確実に上位へ食い込んでくると思われる大注目選手の皆さんです!」


時間の許される限り甲斐の注目選手達への熱い想いが語られる。

中には先ほど登場したラナン・キュラスのパネルも見受けられたが、さりげなく飛ばされた。

最後に残されたパネルには黒い布が被せられている。

勿体つけた甲斐が勢い良くその布を捲ると、そこには黒髪で長身の男のパネルが立っていた。

伸びた前髪から覗く目は鋭く、浅黒い肌と厚い胸板、太い四肢。

そして、甲斐が力強く彼の名前を読み上げる。


「現在大会3連覇。この男の強さは一体どこまで続くのか!世界が認めた最強の戦士。彼を見たものは圧倒的な力と生命力に敬意を込めてこう呼ぶのです!レジェンド・オブ・ファイター『フィリック・エルドランド』!」


そして、番組は大盛り上がりで終了した。最後に甲斐はこう締め括った。


「いよいよ第49回世界ロボット大会が開始致します。会場の皆様もテレビの前の皆様も世界一のロボットショーを最後までお楽しみ下さい!まもなく開会式が始まります!」


世界中でカウントダウンが行なわれる。


子供達がテレビの前で飛び跳ね、大人達が子供の様な瞳で見つめる中、ついに開会式のファンファーレが鳴り響いた。

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