始まりのファンファーレ ③
「さぁ次のコーナーに参りましょう!」
スタジオには大きなパネルが用意させていた。
そこには大きな文字で「第四十九回世界ロボット大会レース部門大胆予想」と書かれている。
「それでは、まず先にレース部門のルール簡単にご説明をいたします。」
画面に「第二部門レース」の文字が横から滑り込んでくる。
「この部門は、全長200kmのコースを走るスプリントレースです。コース上には、高低差や傷害物があり非常に難度の高い部門となっております。参加要件としては、操縦者は年齢性別不問。プロ・アマは問いませんが、5年以上の経験者である必要があります。ただし、使用するロボットはあくまでも人型もしくは動物型であること。原則として頭部・胴体・両手・両脚が必要ですが、脚部が車輪やホバータイプであっても参加は可能です。但し、コースの状態により移動方法を変更する場合、基本タイプの他1回まで変更可能です。よって、どこで変更するかが勝敗に影響するでしょう。」
画面には、コースの立体図が表示され、勝敗を分けるポイントをいくつか紹介された。
「さて、ここからは、第三十五回大会においてレース部門3位に輝いた「マッハ・ライトニング五郎」こと「武田五郎」さんにバトンタッチでございます!」
甲斐が大げさに拍手すると、いつの間にかパネルの前にいた武田が妙なポーズでカメラを待っていた。
「全国のみんな!今年も熱いレースがやってきたぜッ!そして、この俺!マッハ!マッハ・ライトニングごーろーが今年のレースのベストスリーを大胆予想しちゃうんだぜッ!」
力任せにパネルを叩く。
番組スタッフが揺れるパネルを必死で押さえる。
「まず3位は、こいつだッ!」
勢いよくパネルをめくる。
「スピーディー・ビリー!こいつのクレイジーな走りは最高だぜッ!」
すかさず甲斐がサポートする。
「スピーディー・ビリーは直線での加速力が予選1位ですね。異常な程のスピード狂で勝利への鍵は、コーナーリングでの減速でしょうね。何度も曲がりきれずにクラッシュするのを見たことがありますから。」
甲斐が少し眉を顰める。
そんな甲斐をよそに武田が続ける。
「予想第2位!韋駄天2号だぜッ!」
めくった勢いでパネルが破け「韋駄」の文字だけが見える。
慌てて残りをめくろうとするスタッフを尻目に武田が拳を握り締め力説し始める。
「こいつのスピードは半端ないぜッ!ぶっちぎりだぜ?」
そしてまた、武田を遮る様に甲斐がサポートする。
「操縦者は日系2世の敏雄・F・山下氏ですね。このロボットもスピード重視の様です。彼もまた直線での伸びに期待です。」
と簡潔にまとめた。
「え~・・・続いては大胆予想1位ですね・・・。」
甲斐は手元のマニュアルを見ながら言葉に詰まる。
「予想第1位だぜッ!」
武田の鼻息がさらに荒くなり始めた。
甲斐の諦めた表情が画面に見切れる中、武田が最後のパネルをめくる。
「マッハ・ライトニングジュニアぁぁ!」
パネルが勢い良く倒れる。
もはや起こそうとするスタッフも居なかった。
「はい。え~っと、言わずと知れた武田さんの御子息です。今年初参加のダークホースですね。以上!武田五郎さんによる大胆予想でした!」
この上なく強引な切り上げだが、自慢の息子を全世界に紹介出来た武田は実に満足そうだ。
そして、その満面の笑みのままCMへと切り替わった。
だがしかし、CM明けのスタジオはまたガラリと様子を変え、なにやら物々しい様相を呈していた。
画面には甲斐とは違うキッチリとしたスーツに身を包んだアナウンサーらしき人物が真面目な顔でカメラ目線を送っていた。
「番組の途中ですが、ここで緊急のニュースが入りました。先ほど番組内でご紹介されました敏雄・F・山下氏の操縦する『韋駄天2号』が調整中コンピュータに誤作動が起こり暴走。隣で調整をしていたマッハ・ライトニングジュニア氏のロボット『ラヴ・シューティングスター』に激突。大破炎上しました。幸いにも死者、負傷者はおらず大会にも支障をきたさないとの事です。なお、ロボットが大破してしまった敏雄・F・山下氏、マッハ・ライトニングジュニアこと武田誠氏は今年度大会リタイアとなりました。以上、緊急ニュースでした。」
アナウンサーが深々とお辞儀すると画面は再び甲斐のいるスタジオへと移された。
「え~、大変なニュースが入りました。先ほど大胆予想2位と1位の両選手がそろってリタイアという事で・・・まぁ、誰も怪我が無かった事だけでも良かったと思います。両選手には、大変残念だったと思います。次回大会では是非、その力を存分に発揮してくれる事を待ちに待っております!」
再びCMへ入る直前、ポッカリと空いた甲斐の隣の席が寂しげに映し出された。