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黄金の羽 ③

「世界中にいる私の恋人達。待たせたね。前フリが少々野蛮だった事をお詫びしよう。その代わりこれから最高に高ぶる君達の心を撃ち抜いて見せるよ。それでは、そろそろショーを始めよう。」


その言葉に同調するかの様に、出現枚数が次々とカウントされ始める。

大歓声がうねりを上げて会場を包み込んだ。


「おおっと!ここで一気に状況が動き始めました!次々と的が現れていきます!ラナン選手の言うとおりここからがショーの始まりのようです!」


甲斐の握り締めるマイクが興奮で震える。


「くそっ!なにがこれからだ!もう俺の方がリードしてんだよ!俺が勝つんだよ!」


アンドレは遺跡入り口の顔面巨石の上に現れた的に狙いを定めた。


「もらった!」


ダイナミックボンバーのバズーカが火を噴いた。

ポイントが加算され、アンドレがニヤリとする。

ところが、加算されたのはアンドレではなく、ラナンのポイントだった。


「な!なんだとぉぉ!?くそっ!どうなってやがる!」


アンドレは別な的に狙いを定め、引き金を引こうと人差し指がピクリと動く。

次の瞬間、的の中央を何かが貫いた。

的はパシッと弾けて消える。


「な・・・まさか。」


アンドレが恐る恐るエルドールの方を見る。

左手に持ったスナイパーライフルを真っ直ぐ伸ばしている。

そしてまた、メイン画面にラナンが顔を出した。


「すまないが、もう君のポイントは伸びないよ。あ、そうだ。いい事教えよう。宝部屋はあの塔だと思うよ。」


そう言い終るとエルドールはゆっくり両手に持ったスナイパーライフルを下げた。ラナンは静かに深呼吸をする。


「桔梗。よろしく頼む。」

「了解。索敵データを転送する。さぁ!どんどん働いてよ!」


桔梗の指が慌しくキーボードを打ち始める。すると、エルドールのメインモニターが360度フルスクリーンに切り替わる。


「さぁ・・・いこうか!エルドールよ。力を示せ!」


掴んでいる両方の操縦桿を力強く引き抜く。

両腕を左右に広げるとコックピットが左右に広がる。

座席が収納されラナンが立ち上がるとコックピットが上下に広がった。

エルドールのコックピットは人一人が両手両足を振り回しても十分余裕があるくらいに広がり、360度フルスクリーンはまるで空を飛んでいる様にも見える。

コックピットの変形に伴って、外見も大きく変形する。

ずんぐりとしていた胴体が上へ伸びる。

両脚も大きく広がった両足に収納されていた部分が伸び、広がっていた両足が細く締まるとスラッとした脚になる。

大きかった足も土踏まずの部分から折れ曲がりヒールのようにつま先踵立ちになった。

伸びた胴体の腹部分は逆三角形に締まり、胸から上が左右に分かれ肩を支点に上に開くと、埋まっていた頭部が出て来た。

背中部分が真ん中から開くと、真っ白なマントが外れ風に流され飛んでいく。

開いた背中は羽根の様に広がり、そこには予備のスナイパーライフルが数十本装備されていた。


「出ました!エルドールの真の姿と言いましょうか!スラリと伸びた両脚、引き締まった胴体、そして、天から使わされたその翼は、今、大きく広げられました。まさにここからがショータイム!さぁ、観客の皆さん。瞬きせずにご覧下さい!」


観客は画面を食い入る様に見詰める。


「変形がなんだってんだよ!これ以上ポイント取らせないだとぉぉ!」


アンドレはダイナミックボンバーに装備されている4つのバズーカをフル充填しエルドールに背を向ける。


「こっち側なら狙えないだろう!」


そう言った矢先に、目の前にあった的5枚が一気に撃ち抜かれる。


「なんだってんだよぉぉ!」


悲痛な叫びを上げるアンドレ。

左側に見えたポイントに近づこうと機体の向きを変える。

だが、その的も中心を撃ち抜かれ消えた。


「く、くそ!」


慌てて周りの的を探すアンドレ。

その全てが次々に撃ち抜かれていく。


「うあぁぁぁぁ!」


アンドレの叫びが悲しく響き渡る。

琴鼓達は画面を呆然と見ていた。


「す、すごい・・・。」


琴鼓が呟くと皐月が大きく頷いた。


「こりゃただのナルシストじゃないね。」


華凛が感嘆の溜息をついた。

エルドールの動きは滑らかで美しかった。

流れるように両腕が孤を描き、的が出現すると体を捻る様に回転しながら撃つ。

スポットライトを浴びているかのようにその一点からブレなかった。

狙う時間が無いその射撃は撃った火花が消える前に次の火花が散る。

それはまるで、黄金の羽を舞い散らせながら踊る天使だった。


「とっても綺麗・・・。」


幼少時代、祖母に日本舞踊を習っていた琴鼓はその動きから目が離せなかった。

日本の舞とは違うが、流れる動きは共通するものを感じる。

なによりもこんなに優雅に戦う姿を見るのは、今までの人生で2度しかない。

一つは幼少の頃。

その時の感動が今まさに甦っていた。


「くそ・・・くそぉ・・・。」


アンドレは手も足も出ず呆然としていた。

その時、ふと遠くに見える塔が目に入った。


「こ、これだけは渡さねぇ!」


ダイナミックボンバーは両肩のバズーカを外し身軽になると猛ダッシュで塔へ向った。


「やっと気付いたようだね。」


その様子を見たラナンはニヤリとする。


「距離は十分。タイミング間違わないようにね。」


通信モニター越しの桔梗が言う。


「ああ、任せておけ。」


ラナンはウインクで答えた。


「おおっと!アンドレ選手。ラナン選手の隙を狙って宝部屋のある塔へと猛スピードで向っております!出現枚数は現在500を突破しておりますが、まだ全て出現していません。ラナン選手、このままでは続けていると宝部屋はアンドレ選手の手に落ちてしまいます!さぁ、ラナン選手は宣言通りすべてのポイントを取る事が出来るのでしょうか!?」


甲斐と観客の熱気が、密林のジメジメした熱をさらに上げる。

ついに、アンドレのダイナミックボンバーが塔の下まで辿り着いた。

まずは、一階部分へ向けてバズーカを放つ。

爆風と砂煙が上がる。

だが、そこには的はない。


「くそ!2階か!?」


ダイナミックボンバーは飛び上がるとバズーカを構えた。


「ラナン!」


桔梗が叫ぶ。


「わかっている!」


ラナンが答える。

バズーカの砲弾が塔2階の壁を吹き飛ばす。

砂煙の中、キラリと光るたくさんの的が露になった。


「もらったぁぁぁぁぁぁ!」


アンドレの咆哮が会場に響き渡る。

観客が悲鳴をあげる。

ダイナミックボンバーが両手で構えたバズーカを放った。

着弾と同時に塔の反対側の壁と屋根が吹き飛んだ。

ポイントが一気に上昇する。


「へへへ・・・やってやった・・・ぜ!?」


アンドレの期待を他所に増えたのはラナンのポイントだった。


「なんだよ・・・なんだよそれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


これ以上ないくらいの悲痛な叫び。


「こ・・・これは・・・どういう事でしょうか?」


さすがに甲斐もアンドレのポイントだと疑っていなかった。

だから、目の前の出来事が信じられなかったのだ。


「ス、スロー映像です!ご覧下さい!」


観客が一斉にこの奇跡を見ようと画面に食らい付いた。

飛び上がったダイナミックボンバー。

右手のバズーカから放たれた砲弾が2階の壁を吹き飛ばした。

たくさんの的が並んでいる。

さらに、ダイナミックボンバーが両手のバズーカを放つ。

その僅かな瞬間。

飛び上がったダイナミックボンバーの足元から3発、それに真横を2発の弾が機体をかすめて崩れた壁の中へ吸い込まれていく。


「こ、これです!ご覧頂けましたでしょうか!?それでは、次にこの瞬間のラナン選手側を見てみましょう!」


甲斐は興奮して画面を操作する手が震える。

エルドールはダイナミックボンバーが塔の壁を破壊するまで出現する的を踊る様に射抜いていた。

塔の壁が破壊された瞬間、ゴールドフェザーは止まるどころか、素早く回転すると最初に両手のスナイパーライフルを2発、回転しながら左で1発、一回転して右、左を連続で撃っている。

さらに放たれた弾は回転により曲線を描きながら砂塵を切り裂き、塔の部屋へ吸い込まれた。


「この間・・・たった2秒・・・。距離はざっと1キロ。しかもたった5発であの枚数を射抜く・・・私、こんな神業、どの大会でも見たことが御座いません。今、加算されたポイントは2080ポイント、部屋にあった的は88枚です。要するにこの2秒で30ポイントを60枚分撃ち抜いた計算になります!」


会場は狂喜乱舞。

残りの的の出現を待たずに試合の決着は着いていた。


「くそ・・・くそぉ・・・・。」


アンドレが操縦桿を握り締めたまま悔し泣きしていた。

その真横に的が出現する。


「ああ・・・的。やった・・・この的は俺の―。」


的は撃ち抜かれた。

アンドレの目にスナイパーライフルを構えるエルドールが映った。


「ひ、ひでぇよぉ・・・。」


アンドレはガクリと肩を落とすと白目を剥いた。


「いやぁ~すまない。有言実行が私のモットーなので。」


ラナンのウインクに女性客数人が失神した。

その後、残りの的は完全に戦意喪失したかアンドレを他所に次々ラナンが撃ち抜き、試合終了の合図が会場に鳴り響いた。


「さぁ皆さん!今日の結果発表です!アンドレ選手とダイナミックボンバー。撃破枚数49枚ポイント内30ポイントは0枚。ポイントは、たった・・・オホンッ。失礼しました。ポイントは490ポイント!」


会場からブーイングが聞こえてくる。


「続きまして!ラナン選手とエルドールの得点は・・・!撃破枚数551枚内30ポイントは・・・よ、よんひゃ・・・483枚!得点は、いちまん・・・15170ポイントォォォ!」


興奮し過ぎた甲斐が思わずマイクを投げる。

すぐに気付いて予備のマイクを手に取ると大きく息を吸い込んだ。


「第5回戦!勝者はラナン選手とエルドール!この大会でまた新たな神話が誕生しました!」


会場の歓声が聞こえてくる。

桔梗が通信モニター越しにラナンへ祝いの言葉を掛けているのを琴鼓達は無言で聴いていた。

圧倒的な技術を見せられ言葉を失っていたのだ。

その様子を見ていたホップが椅子から飛び降りると琴鼓達へ向き直った。


「どう?アニキすごいっしょ!・・・みんな大丈夫?」


反応が無い事に不安になったホップが声を潜める。


「・・・ふぅ・・・なにあれ。反則。」


突然、ヒスイが大声を上げてソファーに倒れ込む。

ホップは、その勢いに思わず後ずさりをした。

大きな目をさらに大きくさせている。


「どう?勝てる?」


ホップを他所に、華凛が苦笑いしながらヒスイに尋ねる。


「・・・あんなの無理。化け物。あのキモ男。」


褒めるよりけなす割合の多いヒスイ。


「恐るべしナルシストだね。」


華凛が大きく頷く。


「大丈夫だよ!ヒスイちゃんもすっごく上手だったよ!」


琴鼓が力強く拳を前に突き出した。


「・・・あんた。おめでたい子。」


ヒスイが溜息混じりに言う。


「このまま行ったらナル男といつ当たる?」


華凛が言うと皐月がバッグをゴソゴソかき回し、トーナメント表が載っているパンフレットを取り出した。


「えっと・・・あ、決勝まで行かないと当たらないです。」


と皐月。


「お、ラッキーじゃん?準優勝までは狙えるんじゃない?」


皐月の広げるパンフレットを横から覗きながら華凛が言う。


「・・・準優勝。そういうの興味ない。」

「そう?準優勝したらあんたの商売にも箔が付くんじゃないの?」

「・・・まぁ確かに。」


そういうとヒスイは苦笑いした。

その様子に琴鼓が勢い良く立ち上がる。


「準優勝準優勝って!まだ負けてないよ!出来るだけ頑張ってみようよ!」


そう言いながら何度も何度も握り締めた両手を上下に振る。


「・・・琴鼓っていっつもこう?」


ヒスイが華凛を見る。


「そう。琴鼓って感じだね。」


華凛が答える。


「・・・暑苦しい。嫌いじゃないけど。」


ヒスイが肩を竦めた。


「琴鼓ちゃんの良い所です。」


皐月が満面の笑顔を見せた。


「・・・華凛。」


ヒスイが琴鼓と皐月を交互に見る。


「ん?」

「・・・あんた苦労するね。」


華凛はヒスイの言葉に無言で微笑んだ。

その時、試合場側のドアが開き、軽快な足取りでラナンが入ってきた。


「いゃ~待たせたね。勝利というのは実に甘美だ。私はこの為に生きていると言っても―。」


軽くステップを踏むとクルリと回った。


「―過言では無い。」


ピッタリと琴鼓達4人の座るソファーの前で片膝を付いた。

そうして左手を胸に当て右手を前に差し出すと潤んだ瞳で4人を見詰める。


「これからも、この甘美なる勝利を共に味わおう。」


誰一人としてその手を取る事は無かった。

軽く咳払いをしてラナンは立ち上がり、後ろ手に組むと無言で歩き、ホップが座っていたパイプ椅子へ優雅に座った。


「あの。ラナンさんは優勝狙ってるんですよね?」


おもむろに琴鼓が尋ねる。

その言葉にパッと顔色が明るくなるラナン。


「ん~。狙うというか、大会を楽しんでいる内にいつの間にか手に入っているだけのこと。」


顔が若干上向きになったせいか、ラナンの鼻が高くなった。


「そうなんですか?でも、やっぱりやる気出して優勝は狙った方が良いと思いますよ!」


琴鼓が意気込む。


「え?あ、いやまぁ・・・やる気無くは・・・。」

「ヒスイちゃんも頑張らないと!」


言葉に詰まるラナンを無視してヒスイの方へ振り向く。


「・・・だから、興味ないって。」

「え~!頑張らないと勝てないよ?」

「・・・勝つ事に興味ない。自分の武器が売れれば良い。まぁ他に目的あるから、負ける気も無いけど。優勝準優勝は興味ない。」

「でも!」


琴鼓がグイと前のめりになると、すかさず隣に座っていた華凛が押さえる。


「はいはいはいはい。そういうのは個人の自由です。あんたが考える事じゃないの。さぁ、そろそろ帰るよ。」


その言葉を聞いて皐月はサクサク帰り支度を済ますとバッグを膝に置いて他の人を待っている。

琴鼓がふくれっ面で口を尖らし小声でブチブチ言いながらモタモタ帰り支度をしていると、フラフラとラナンが近付いて来て耳元で囁いた。


「君の考えは間違っていないよ。誰もが勝つ気で大会に参加している。ただ、皆大きい事を言うだけの勇気が無いだけさ。君は私なんかより、よっぽど勇者だよ。」


言い終わると琴鼓の頭を軽く撫で、またフラフラ離れて行った。

一瞬、顔が熱を帯びるのを感じ、思わず帰り支度中のバッグの中に突っ込むところだった。

気持ちがすっかり晴れた琴鼓は、帰り際いつも以上に元気な挨拶をしてラナンチームと別れた。

ヒスイはそのまま用事があるからと別れた。

それから帰り道。

鼻歌交じりの琴鼓の顔を皐月が覗きこんできた。


「琴鼓ちゃん。楽しそうだね。ラナンさんに何言われたの?」


意外と目ざとい皐月がニヤっとして琴鼓の顔を見詰める。


「私の事、勇者だって。ふふふ、ラナンさんも桔梗さんも牡丹さんもホップくんもとっても面白くて良い人達だったね!また会いたいね!」


琴鼓の笑顔に皐月も笑顔で答えた。


「ほら!二人!早く帰るよ!」


先を歩く華凛が振り返り大声で二人を呼んでいる。


「はーい!」


琴鼓が大声で返事すると皐月と二人で華凛の元へ駆け出した。

読んでいただき有難うございます。

次回は、多忙のため更新出来ません。

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