シューティング部門 ②
誰しも目の前で起こった大惨事に目を逸らした。
救急隊のサイレンが鳴り響き、消防車と共に倒れたビルへ向う。
「えー・・・ご来場の皆様。しばらくその場を動かない様に・・・ん・・・?こ、これは・・・!」
甲斐が思わず言葉に詰まると、メイン画面を指差した。
「メイン画面をご覧下さい!あれは・・・なんでしょうか!」
崩れたビルのちょうど両機がいた場所。
そこに、丸い何かが見えている。
「ま・・・毬・・・?」
見えている丸いものには、花の模様が付いている。
甲斐が呟いた様に、まるで毬の様にも見える。
それが、動き始めた。
瓦礫をガタガタと落としながら少し盛り上がると、毬はいくつもの板に分かれ折りたたまれていく。
そこに、現れたのは、ヒスイの操縦するクシナダと気を失ったアイリン同様、気を失った様に横たわるバッドガールの姿だった。
「・・・ったく・・・情けない戦いするな。」
ヒスイは、気絶しているアイリンをまたいでそのまま会場へと戻った。
「皆さん!両者共に無事のようです!えっと、ここでスロー映像をご覧下さい。」
観客全員が画面に釘付けとなった。
倒れていくビル。
バッドガールはすでに腰を抜かし動けなくなっていた。
そこに窓を突き破って飛び出してきたクシナダが覆いかぶさると、背中と腰に付けた板の様な物を広げた。
そこへビルが倒れ込んできた。
「え~・・・どうやらヒスイ選手が咄嗟にクシナダに搭載された防御壁を展開したようですね。先程の毬のような半球体がそうなのでしょう。いやはや、しかし、アイリン選手の暴走には肝が冷えましたねぇ。ですが!ヒスイ選手の自らの危険をかえりみず、身を挺して敵であるアイリン選手を助ける様子には大変感動致しました!皆様盛大な拍手でヒスイ選手を見送りましょう!」
そう言いながら放送席で立ち上がろうとする甲斐にスタッフがカンペを出した。
「あ!ああ!私としたことが大変失礼しました。第4回戦の勝敗の結果を発表いたします!ただいまの対戦結果は、アイリン・パタゴニー選手とバッドガール、撃破枚数342枚内30ポイントは46枚、得点は・・・4340ポイント!」
会場からは「あー」という溜息が漏れる。
「対しまして、ヒスイ・ローエンハルト選手とクシナダの撃破枚数は、258枚内30ポイントは・・・232枚!」
会場からは歓声が上がる。
「そして、得点は・・・7220ポイント!ヒスイ・ローエンハルト選手の勝利です!」
大歓声と拍手に会場が揺れた。
「すごいすごい!ヒスイちゃんやったね!」
琴鼓が隣に座る華凛の太ももをバシバシ叩く。
「イタ!わかった、わかったって!」
そう言いながら華凛も笑顔だった。
「ねぇ!ヒスイさんに会いに行きましょうよ!」
いつになくはしゃぐ皐月に、二人は笑顔で大きく頷いた。
三人は散らかしたゴミを袋に詰めると観客席を後にした。
その背後では、救急隊のロボットに担ぎ出されるバッドガールとその上で何か叫んでいるアイリンの姿があった。
3人は、ヒスイの試合の感動を大声で話しながら選手控え室へ向っていた。
「ほんっっと、ヒスイちゃんすごかったぁ~。クールな感じでバンバン打ち抜いていくの!それにさ!最期、悪い事した相手なのに助けちゃうって!もぉぉ~!」
興奮がぶり返してきた琴鼓が駆け出した。
「あはは。だからアタシらも見てたって。ほら、走ったらあぶないぞ!」
「ふふふ。琴鼓ちゃんったら。」
「あ!」
突然、琴鼓が止まる。
「ん?どした?」
「ヒスイちゃんの控え室って、ど―。」
言いかけた琴鼓の顔を目掛けて、控え室のドアがいきなり開いた。
「あぶな―。」
華凛が叫ぶと同時に、激しくぶつかる音が鳴り響いた。
バァァン!
「うわ!」
ドアを開いた男が驚いて声を上げる。
「琴鼓!」
「琴鼓ちゃん!」
華凛と皐月が同時に駆け出した。
「いったぁぁぁぁぁ!」
琴鼓は、ドアの裏でうずくまり顔を抑えていた。
「だ、大丈夫ですか!?」
男が慌てて近寄る。
「た、たいじょぶです・・・。」
大丈夫じゃなさそうな琴鼓の鼻から赤いものが流れ落ちた。
「うわ!すいません!大変だ・・・!」
慌てる男を押し退けて華凛と皐月が琴鼓に近寄る。
「琴鼓!あんた鼻血出てる!」
「大変!えっと・・・ティッシュティッシュ!」
皐月はバッグからポケットティッシュを取り出すと、丸めて琴鼓の鼻に詰め込んだ。
「ふが!ひたいよ皐月たん。」
琴鼓がなみだ目で訴える。
「血がお洋服に付いちゃうよ。」
皐月は心配そうな顔で、もう片方の鼻にもティッシュを詰め込んだ。
「申し訳ありません!まさか、人がいるとは思わずに・・・。」
男は、そう言いながらすでに3回も頭を下げていた。
「いやいや。この子も不注意でしたから。まぁ、そちらも誰も居ないか気をつけて開けるようにしてください。」
華凛の言葉に男は完全に落ち込んでしまった。
そこへ、男が出てきた控え室の奥から声が聴こえてきた。
「桔梗先輩。なにしてんすか?」
現れたのは少年。
桔梗と呼ばれた男が慌てる。
「ホップ!あのさぁ!ボクがドア開けたら、あ、でもそんなに勢い良くは開けてないよ?でね、女の子がバァンってなって、あ、ぶつかったドアがバァンって―。」
思わず落ち着けと言いたくなるくらいに桔梗の言葉は支離滅裂だった。
「あ・・・ああ!先輩なにやってんすか!」
両鼻にティッシュを詰めた琴鼓を見付けたホップが駆け寄る。
「君、大丈夫?」
ホップは、初対面では有り得ないくらいの距離感で顔を近づけた。
「あ!だ、だいじょうぶ!」
琴鼓は思わず立ち上がって離れる。
顔が赤くなるのを感じた。
琴鼓がそうなる理由は当然だ。
少年の様な顔立ちはあまりに整っていて、大きな瞳が人懐っこくキラキラ輝いている。
完全なる美少年だったのだ。
「あの、ごめんね。ボクがもっと気を付けていれば・・・。ホントにごめんね。」
桔梗が頭をふかぶか下げる。
「いえ。もう大丈夫ですか・・・ら。」
顔を上げた桔梗の顔を見た琴鼓は息を呑んだ。
桔梗もよく見ればかなりのイケメンだったのだ。
切れ長の優しそうな瞳が安心感を受ける。
「桔梗先輩。医務室に連れて行ってあげなよ。」
ホップが軽いステップで立ち上がると桔梗の背中をバシッと叩いた。
「ウッ・・・げほげほっ。う、うん。そうだね。」
強く叩かれ桔梗がむせる。
そんな時、再び控え室の奥から声が聴こえてきた。
「おい!騒がしいぞ!何をやっている?」
野太い声と共に、巨体がヌッとドアから出てきた。
身長は、長身の桔梗より頭一つ分ほど高く、やはりイケメンだった。
はっきりとした太い眉毛に大きく鋭い瞳が野性的な魅力を感じる。
「桔梗。お前、隊長の待ち時間聴きに行ったんじゃないのか?ホップ!お前はウロチョロするんじゃない!」
「え~!俺、別にウロロチョロしてないって!桔梗先輩が―。」
言い終わる前にホップの頭に拳が落ちる。
「ッタァァァ!俺、悪くないってぇ~。」
目に涙を溜めてシブシブ控え室へ入っていった。
「桔梗。お前も早く確認して来い。」
「あ、それが牡丹。この子に怪我させてしまって・・・。」
牡丹と呼ばれた男が、琴鼓達をじっと見詰める。
「なるほど。うちの者がとんでもない事をしてしまったようだ。解った。俺が代わりに確認に行ってくる。お前は彼女を医務室へ送り届けろ。」
そう言い、武士のようなお辞儀をすると大股で会場へ向っていった。
「あのさ・・・。悪いけどアタシら医務室くらい行けるんで。」
イケメン達の成り行きを見守っていた華凛が堪え切れず口を出した。
「え!そんな!ボクが送るよ。」
桔梗は慌てて先を歩き出すので、3人は仕方なく後に続いた。
医務室へはすぐにたどり着いた。
さすがにここまでで十分だと同席を断ると、桔梗は、医務室のドアが閉まるギリギリまで頭を下げ続けていた。
「それで?どうしました?」
クルリと振り向いたその医者は年齢70くらいの男性で、三人は少しホッとした。
「この子がドアにぶつかって鼻血出しちゃって。」
華凛が手短に説明した。
「どれどれ・・・あ~・・・鼻の中切っちゃったんだね。まぁ薬つければすぐ治りますよ。あ~・・・えっと、ニッシュ君だっけ?そこの薬箱取ってくれないか。」
呼ばれたのは長身の男。
頭に手拭を巻いた少し垂れ目の優男と言った感じだ。
「ああ。これっすか?どうぞ。」
老医者に薬箱を手渡すと、振り帰り際に3人へウインクをした。
老医者による簡単な治療も終え、医務室を出ようとしたところで、奥から女性のイライラした声が聞こえてきた。
「・・・だから、もういい。薬だけくれればいい。検査なんていらない。」
「だから!原因が解らないと薬も出せませんって!」
男が反論している。声からすると先程の優男の医者のニッシュのようだ。
「・・・じゃあ薬もいらない。帰る。」
「あ、ちょっと待ってください!」
静止も聴かずに医務室の奥から飛び出して来たのは、なんとヒスイだった。
「・・・!」
「あ・・・!」
「お?」
「あら・・・。」
鉢合わせた4人が各々声を上げる。
「・・・あんたらなんで?・・・!?琴鼓、どうした?」
ヒスイは、鼻に詰め物をした琴鼓に気付く。
「あ、これ?ぶつけちゃった。」
照れ臭そうに頭を掻いた。
「ていうか、ヒスイ。あんたこそどうした?試合で怪我でも?」
華凛がヒスイの全身を見回す。
「・・・怪我なんてしてない。ちょっと気分悪かっただけ。」
「大丈夫なんですか?」
皐月が心配そうに見詰める。
「・・・平気。お腹ぺこぺこ、な、ぐらい。」
ヒスイがニヤリとする。
「それじゃ~さ。みんなでご飯食べに行こうよ!ね?ね?」
鼻の詰め物を飛ばしそうな勢いで琴鼓が張り切って言う。
4人が意気投合して医務室を出ようとすると、ニッシュが駆け寄ってきた。
「これを飲めば少しは効くと思いますよ。」
ヒスイに紙袋を手渡す。
「・・・いいの?」
「栄養剤だから効き目は保証出来ないよ。」
「・・・どうも。」
ニッシュは、軽くお礼を言ったヒスイに小声でささやいた。
「必ず専門医に行って下さい。カウンセリングも有効です。あまり安易に考え無いように。」
ヒスイは無言で離れると振り向き、手をヒラヒラ振った。
そのまま4人の後姿を見守っているニッシュに老医者が「どうかね?」と声をかけてきた。
「いゃ~おっしゃる通りおてんばでした。私生活は全く問題ないでしょうね。ただ、ロボット乗りとなるとやはり障害になるでしょうね。治療はしなかったんですか?」
「うむ・・・もちろん通常考えられる治療はした。薬物治療から操縦席に乗るリハビリ。なんとかここまで乗りこなせるようにはなった。」
「ええ、試合見る限りでは彼女が問題を抱えている様には見えませんね。」
老医者はニッシュに古いカルテを渡した。
「これは、彼女の昔のカルテですね。初診は7歳ですか・・・。」
「ああ、父親を亡くしたばかりだったよ。」
老医者は、かけていた老眼鏡を外すと目頭をつまんだ。
「それが・・・原因ですか。」
ニッシュの問いに答える代わりに大きく溜息をついた。
次の朝、4人は同じ部屋で目覚めた。
「う~ん・・・。」
琴鼓がうなり声をあげた。
「今何時?」
華凛が言う。
「午前11時です~。」
皐月が寝返りを打った。
「ヒスイ。今日は試合無かったんだっけ?」
「・・・んー・・・ない。」
「あっそう。」
気だるい会話がしばらく続いた。
昨日、4人で食事に行った後、盛り上がった彼女達は、そのままカラオケへ。
散々歌いまくった後、皐月の別荘で夜中まで騒ぎ、そのまま爆睡していたのだ。
「お腹減ったね。」
琴鼓の台詞をかわきりに4人はやっと起き上がった。
遅すぎる朝食を食べ終わるとまた部屋に戻ってきた。
「・・・ふぅありがと。ご馳走、それに泊めてもらった。」
ベッドへ倒れ込むとヒスイが満足そうに言った。
「いえ。ヒスイさんには色々お世話になりましたし、もうお友達ですから。」
皐月はベッドに腰掛けるとヒスイに微笑んだ。
「ねぇねぇ。今日どうする?」
琴鼓がベッドへダイブする。
「・・・アタシは大会見に行く。どいつが勝ち残るか見たい。」
ヒスイが言う。
「それじゃみんなで見に行こうよ!」
「あたしもそれで良いよ。暇だし。」
華凛は大きなアクビをしながら全身をこれでもかと言うほど伸ばした。
会場に着いた頃にはすでに午後2時をまわっていた。
シューティング部門の後半戦も半ばを過ぎ、ついに今日一番の注目株の登場となっていた。
その人物こそが、前大会シューティング部門優勝者ラナン・キュラスだ。
ラナンは、薄暗い操縦席に座り精神統一をしていた。
ゆっくりと呼吸をする。
鼻から吸って口からゆっくりと吐き出す。
不意に、ラナンは通信回線を開く。
「牡丹。観客の入りはどうだ?」
ラナンの問い掛けに、メイン画面の左下に小さな通信モニターが映る。
「満席です。」
「そうか。また有名になってしまうな。」
ラナンは、目を瞑ったまま口だけ動かす。
「ホップ。今日の対戦相手は?」
通信モニターの人物が入れ替わる。
「えっと・・・男だけど、聞く?」
「いや。必要ないな。桔梗はいるか?」
「桔梗せんぱ~い。アニキ呼んでま~す。」
通信モニターからホップがいなくなると、バタバタ走る音が近づいてくる。
「はい!なんだい!?」
「再調整中だったか?すまないな。」
「いや。4度目の確認だから。」
「いつになく慎重だな。手間をかける。」
「ううん。ボクは、好きでやってるだけだからさ。」
「そうか。お前がいてくれるから私は撃つ事だけに集中出来る。牡丹もホップも、私に必要不可欠なんだよ。みんなに感謝している。」
「はいはい。アニキはいっつもそう言うんだから。」
ホップが、桔梗の後ろから顔を出す。
「私はいつも本気で言っているぞ?」
ニヤニヤするホップの襟首を、太い腕が引っ張り画面から見えなくなる。
代わりに牡丹が顔出した。
「隊長。そろそろ時間です。」
「解った。そうだ、桔梗。」
牡丹がいなくなり、画面には桔梗だけが残った。
「ホップから聴いたが、少女に怪我をさせてしまったと・・・?」
「あ・・・ごめん。ボクの不注意だったんだ。医務室には送り届けたよ。」
「ふむ・・・後でその少女の居所を突き止めておけ。私が直接お詫びに行こう。」
「え・・・でも・・・。」
「もちろん。お前も来て貰うぞ。怪我をさせたなら治るまで責任がある。それがどんな長くなろうともだ。それに、部下の失態は上司の責任でもある。」
「・・・わかった。ボクも最期まで責任をまっとうするよ!」
「よし!まずはこの試合。確実に勝ち取る!」
ラナンはこの試合で、改めて全世界に圧倒的な力を示す事になる。
読んでいただき有難うございます。
次回、作者多忙のため更新できません。
次話も読んでいただけたら幸いです。




