シューティング部門 ①
中央公園は、あっという間に元通りになった。
ララの言うとおり、事件はイベントとして処理された。
当然、マスコミからは、やりすぎだと非難があったようだが、一般人に怪我人も無く、破壊された街は3日で全て修復されたため、4日目以降には人々の記憶から薄れていった。
そして、木曜日。
琴鼓達は、大会会場でおおいに盛り上がっていた。
前日から始まったシューティング部門に出場しているヒスイの応援に来ていたのだ。
「ヒスイちゃんは何回戦目かな?」
プログラムを見ながら琴鼓が呟く。
会場は、相変わらずの熱気で普通の会話も大声で話さなくてはならない。
「え?!なに?!」
華凛が顔を近づける。
「独り言!ヒスイちゃんは、何回戦目かなって言ったの!」
「あっそう!」
プログラムの4回戦目にヒスイの名前があった。
ロボットの名前は「クシナダ」。
中央公園では遠くから狙撃していたために姿は見ていなかった。
琴鼓は、どんなロボットなのか楽しみで仕方ない様子で、前日からその話ばかりをするものだから華凛と皐月はうんざりしていた。
「ねぇねぇ!今って何回戦目かな?どんなロボットか早く見たいね!」
琴鼓は前のめりで二人をキラキラした目で見詰める。
「はいはい。楽しみね。今って何回戦目?」
華凛は受け流しつつ皐月に聞いた。
「えっと。今、3回戦目。ヒスイさんは次ですね。」
その言葉に、琴鼓の興奮が一気に高まる。
「うぉぉ!燃えてくるね!」
その時、3回戦目が終了した。
2020ポイント対1980ポイントという成績も中の下と言ったところの見栄えのしない試合だった。
10分間の休憩後、4回戦が始まる。
喉が渇いたとうるさい琴鼓のために、皐月と華凛が売店へ飲み物を買いに行ったところで、試合会場へ向うヒスイとバッタリ出くわした。
「・・・来てたの?」
相変わらず反応。
「琴鼓があんたの試合が見たいってうるさくてね。」
タイプは違うがサバサバした雰囲気の華凛とヒスイは意外と馬が合う様だ。
「・・・華凛だっけ?苦労するね。さらわれたお嬢さんは・・・元気そうね。」
皐月を見るなりニヤリとして見せた。
「あのときは色々お世話になりました。琴鼓ちゃんからヒスイさんが助けてくれたって聴いています。2度も助けて頂けるとは何か縁がありそうですね。」
そう微笑むと深々と頭を下げた。
「・・・トラブルな縁はごめんだけど。まぁ今度ともよろしく。それと応援来ありがと。琴鼓にも伝えといて。」
ヒスイは、言い終わる前に振り向き、手をヒラヒラ振りながら去っていった。
「なんとなく華凛ちゃんに似てるね。」
皐月が呟く。
「え?冗談!アタシの方がスタイルいいじゃん。」
ニヤリとする華凛。
「ふふふ。かもね。」
二人が観客席に戻ると4回戦目の開始2分前がメイン画面に表示された。
飲物を受け取った琴鼓は、興奮しすぎてカラカラになっていた喉へ一気に流し込んだ。
「ぷっはー!さぁさぁ始まるよ~!」
華凛の太ももをバシバシ叩き、いい加減振り払われた時に4回戦目が始まった。
「さぁ!シューティング部門4回戦目が開始致しました!」
張り切った甲斐の声が響き渡る。
会場はシューティング戦用に変形している。
通常ドーム状だが、海側に面した半分が両開きのドアの様に左右へ大きく開き、見渡せるほとんどの海に特設会場が広がっていた。
「スタート位置には両者すでに着いています。まずは、ランダムでステージが選択されます!第4回戦のステージは・・・・!」
メイン画面にステージセレクトが表示されると、数十種類あるステージがルーレットの様に回り始める。
そこに立体映像の銃が現れ、メイン画面を打ち抜いた。
「第4回戦ステージは『都市』です!」
海に広がる特設会場に、いくつものビルがみるみるうちに生えていく。
数秒後、そこにはどこかの近代都市が広がっていた。
「それでは!第4回戦スタートします!」
会場のボルテージが一気に上がる。
カウントダウンが始まり、メイン画面が試合開始を激しくアピールすると、スタート位置に着いていた2体のロボットが一斉にコンクリートジャングルへ飛び込んだ。
「ここで、選手の紹介を致します。エントリーナンバー23。アイリン・パタゴニー選手と愛機『バッドガール』!」
画面に黒を基調とした全身トゲトゲだらけのロボットが映し出された。
「アイリン選手18歳。ロックバンドのボーカルを務める彼女の愛機はやはりロックンロール!両腕に備えたマシンガンでハチャメチャに的を撃ちまくるのが彼女のスタイル!それではここで試合前の彼女のコメントです!」
メイン画面に、金髪で両サイドを編み込み、目の周りを真っ黒に塗りつぶしたアイリン選手が映し出された。
「あたしぃ。絶対勝つよ?ロッケンロール!」
ガムをくちゃくちゃしながらカメラに向かって指差す。
それを見たアイリンのバンド仲間達が歓声を上げる。
「続いてエントリーナンバー12.ヒスイ・ローエンハルト選手と愛機『クシナダ』!」
メイン画面にヒスイのロボットが映し出される。
琴鼓が興奮して飲物を溢した。
クシナダは、藤色と淡いピンク色を基調としていた。
スマートなボディにロングスナイパーライフルを持っている。
背中には羽の様な、腰辺りにはスカートの様なものが付属している。
少し湾曲したいくつもの板が連なって出来ていて、そのすべてに可愛らしい和風な花模様が描かれている。
「ヒスイ選手は、アイリン選手と同じ19歳。詳細は不明ですが、自称ロボット武器職人とのこと!それでは試合前のコメントです!」
仏頂面のヒスイが映し出された。
「・・・?コメント?これ、撮ってる?こんな時に・・・邪魔。意気込み?そりゃ頑張るでしょ普通に。あたし急いでるから。」
このコメントを流すことを考えた開催者側をヒスイは怨みたいところだろう。
ヒスイを知る三人には大ウケだったが、他の観客からは失笑が漏れていた。
「さて、この都市ステージですが、遮る物が多いので視野が狭くポイントが伸び悩む傾向にあるようですが、的場さん。どの様な作戦がありますかね?」
甲斐のとなりには、解説として第20回大会シューティング部門優勝者『的場犬吉』82歳が呼ばれていた。
「そぉですのぉ~。的をよぉ~く狙って撃つのじゃよ。」
「・・・そうですね。ただでさえ遮る物が多いですから、的ひとつひとつ慎重に狙いポイントを得る事が重要・・・という事ですね。」
「ふぉふぉふぉ。」
なぜ解説に呼ばれたのか疑問になる。
甲斐の額に滲んだ汗がその苦労を表していた。
「さぁ!そろそろ的が出始める頃でしょうか!両者の緊張が伝わってまいります!」
アイリンはビルの谷間で一番広そうなメインストリートで待ち構えている。
対してヒスイは、ビルの屋上を転々としていた。
「アイリン選手はすでに射撃体勢に入っている様ですが、ヒスイ選手はいまだ試行錯誤中といった感じでしょうか。落ち着き無く動いています。さぁ、そろそろ的が出始めます!」
甲斐の言う通りメイン画面には的の出現が表示され始めた。
1枚、2枚と次々カウントされるが両機は動かない。
「おぉっと!これは・・・的が見当たりません!すでに出現枚数は20を突破しておりますが、一向に確認出来ません。どういうことなのでしょうか?的場さん。」
懲りずに的場へ意見を求める甲斐。
「かくれんぼじゃのぉ~。楽しいのぉ。」
「・・・・!かくれんぼです!的は隠れているということですね!」
甲斐の言葉にアイリンが動いた。
「どこだ!どこなのさ!」
バッドガールがむちゃくちゃに両腕のガトリングを打ち始めた。
弾は、街灯を破壊し、看板やビルの壁や窓を次々破壊していく。
その時だ。
いきなりポイントが動いた。
「おぉぉぉっと!これは!ポイントゲットだぁぁぁ!先取したのは・・・・ヒスイ選手だ!」
会場が歓声で揺れる。
そこからヒスイのポイントが一気に増え始める。
「これはすごい!30ポイント・・・また30ポイント!アイリン選手がまだ的すら確認できないうちに、ヒスイ選手、次々と正確に打ち抜いていきます!的は・・・的はどこなのか!?」
画面いっぱいにクシナダを映し出す。
クシナダはビルの屋上でスナイパーライフルを構えている。
観客が固唾を呑む中、ビルの窓を打ち抜いた。
ポイントが一気に40ポイント加算される。
「に、2枚抜き!ビルを打ち抜いたヒスイ選手がポイントをゲットォォ!」
クシナダは次々にビルの窓を打ち抜いていく。
「ヒスイ選手!どんどんポイントを取っていきます!これは・・・かくれんぼです!的はビルの中に隠れている様です!」
オフィスやテナントに出現する的が映し出された。
「ちくしょー!ふざけんじゃないよ!」
アイリンが怒声を発した。
怒りと焦りでバッドガールは近くのビルへ飛び込み、一階から次々に天井を破壊しながら上階へ上がっていく。
現れる的も破壊しながら進むバッドガールのポイントも急上昇していく。
「アイリン選手が猛追し始めました!これは、射撃というよりも破壊だ!」
甲斐の言葉通り、バッドガールがビルの屋上を突き破って出てくるとビルは轟音と共に崩れた。
そのまま止まることなく次のビルへ飛び込んだ。
次々にビルを破壊していくバッドガールの派手さに対して、クシナダは落ち着きを払っている。
適格に的を射抜くその技術は、確実に30ポイントを重ねていった。
「さぁ!すでに出現枚数は500枚に達しました!現在の両選手のポイントは、アイリン選手撃破248枚3320ポイント!対するヒスイ選手は・・・なんと!撃破202枚5720ポイントだ!撃破数は完全にアイリン選手が追い抜いておりますが、得点は大きな差が開いております!これは、ヒスイ選手がいかに正確な射撃を行なっているかということになります!素晴らしい!」
大歓声が巻き起こった。
琴鼓達3人も声の限り歓声を上げていた。
「すごい!すごいね!ヒスイちゃん!」
琴鼓が興奮して立ち上がる。
「あいつ・・やるね!」
華凛も興奮を抑え切れないでいた。
「うんうん!」
皐月も紙コップを強く握り締め大きく頷いた。
試合はヒスイの圧倒的有利で幕を閉じようとしていた。
出現枚数はすでに600枚に達し、残数はあと30枚となっていた。
その30枚が出現しているのは、ヒスイが拠点にしていたビルだ。
周辺のビルのほとんどはすでにバッドガールが破壊している。
ポイントを獲得する為にはビル内部に入るしか無かった。
クシナダは、スナイパーライフルから短銃へ換装し最上階からビルへ入った。
遅れてバッドガールが1階から入る。
そこで逆転がすでに不可能となったアイリンは暴挙に出た。
「くそがぁ!ふざけんじゃないよ!良い子ブリやがって・・・キメェんだよ!ぶっ潰してやるよ!」
アイリンは罵声を発しながら、一階にあるビルの主柱を破壊し始めた。
「これはいけません!アイリン選手!我を失っているようです!」
甲斐の言葉に観客から悲鳴が上がる。
そうこうしているうちに、バッドガールが外へ飛び出してくる。
そして、外から最期の主柱をガトリングで撃ちまくった。
「崩れちゃうよ!ヒスイちゃん逃げて!」
琴鼓は届くはずの無い叫び声をあげた。
ビルがゆっくりと倒れ始めた。
しかも、逃げ出したはずのバッドガール目掛けて倒れていこうとしているのだ。
「な、なんで・・・いや・・・。」
アイリンの恐怖に歪んだ顔にビルの影が迫っていく。
「危ない!」
甲斐が叫んだ。
観客が息を呑んだ瞬間、ビルは轟音と共に倒れた。
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