ショータイム ②
戦場だった広場は一変、まさにコンサート会場だ。
「・・・こりゃ・・・参ったね。」
スコープで様子を窺っていたヒスイが両手をあげた。
さすがの華焔も異様な状況に戸惑いを隠せないでいる。
「ヒスイちゃん!歌はあと3分で終わる!このイベント内容見ると曲終わりに花火が打ち上がるの。その瞬間を狙って!」
琴鼓は置いてあったイベント資料を指でなぞる様に読みながら言った。
「・・・3分?長い。あいつ呆けてる、今しかない。」
ヒスイが答える。
「待って!待ってよ。このままじゃ小太刀君、警察に捕まっちゃう。見て!今はみんなイベントだと思っているよ!このまま―。」
「・・・はぁ・・・そんな誤魔化し、無理。街も破壊してる。あいつはもう終わり。とんだ馬鹿野郎ね。」
ヒスイは狙いを動力部へ定めると、引き金に指をかけた。
「待って!お願い!確かにヒスイちゃんの言う通りかも知れない。けど、小太刀君は皐月ちゃんを助けようとしてただけだよ!この戦いに悪い人なんていない。だから、きっとなんとかなるよ!お願い、ヒスイちゃん!」
琴鼓が食い下がるとモニターに呆れ顔のヒスイが映った。
「・・・あんた、甘い。きっと?なんとかなる?甘ちゃんの台詞。」
「わかってる・・・。皆には、それでいつも迷惑かけちゃうんだ。でもね、私は、自分の思いが間違ってないって信じてるから。」
「・・・それ自己満の偽善者。ふぅ・・・まぁ義理無いしどうでも良いわ。カウントダウンお願い。」
そう言うとヒスイは再びスコープで狙いを定めた。
ヒスイの様子に、力なく琴鼓は頷いた。
突然始まった野外コンサートは、残り1分でフィナーレを迎えようとしていた。
スコープを覗くヒスイの目は瞬きもせずに、じっと華焔を狙っている。
あれだけ暴走していたやつが最後まで大人しくしている方がおかしい。
ヒスイはそう思っていた。
操縦桿を握る手に汗が滲む。
不意に、コンサートを呆然と見ていたはずの華焔がヒスイの方を見た。
「・・・!気付かれてる!」
ヒスイが叫ぶ。
「え?」
コンサートの盛り上がりで少し気が抜けていた琴鼓は驚き華焔を見る。
そこには地面に突き刺さっている刀に右足を伸ばす華焔の姿があった。
「な、何?」
琴鼓がゴクリと唾を飲み込む。
すると、なんと華焔の足が手の指の様に分かれ刀をしっかりと握り締めたのだ。
「・・・もう待てない。狙撃、する!」
ヒスイは操縦桿を強く握り締めた。
「待って!もう少し!」
残り10秒で曲はフィナーレを迎える。
「・・・諦めて。」
狙いは操縦席近くの動力部。
動き始めてからでは操縦席にも危害を及ぼす可能性が高まる。
「今しかない!」
ヒスイは引き金を引いた。
スナイパーライフルから発射された弾は螺旋状に空気を巻き込み、いくつものビルの間を抜け、一直線に華焔へ向かった。
弾は、操縦席より少し下の動力部にヒットするとバチッ火花が散る。
その直後にコンサートはフィナーレを向かえた。
打ち上がった花火は、広場を、中央公園を、街全体をも明るく照らした。
幸いにも観客にはヒットとフィナーレの花火の数秒のずれに気付く者はいなかった。
鳴り止まない拍手の中、その場の誰にも気付かれる事無く華焔の機能は停止した。
その様子を2種類の団体が遠くから見ている。
一方は、いつの間にか広場から姿を消していた華凛を加えた皐月率いる白川グループの面々。
事態の終結後、すぐさま野次馬の誘導を行い、疲労困憊の琴鼓と合流を果たした。
「琴鼓!あんたなんでこんな事を!」
ロボットから降りるやいなや華凛が駆け寄り琴鼓の両肩を掴みグイグイと揺らした。
「か、華凛ちゃん。グラグラするぅ・・・。」
「琴鼓ちゃん!大丈夫?怪我ない?」
今にも泣き出しそうな皐月が駆け寄り琴鼓の胸に飛び込んできた。
「ぐえッ!さ、皐月ちゃん・・・。」
妙な声を出した琴鼓だったが、無事に二人に会えた安堵から顔はにやけていた。
「二人とも無事で良かったぁ~。あ、ヒスイちゃんがね。手伝ってくれたんだよ!どこにいるのかな?」
「あの武器職人の?どこ行ったかと思ったら・・・。」
華凛は思わぬ名前に驚いた。
途中で姿を見失ってからは特に気にもしていなかったが、こういう事だったとは意外に良い奴かもと感心した。
「誰ですか?そのヒスイちゃんって。」
皐月が小首を傾げる。
「あ、そっか。皐月は知らないんだったね。なんていうか、絡まれ仲間というか・・・。とにかく見た目をあたしらと同い年くらいなんだけど、まぁ変わったやつで、でもなんとなく良いやつかもって感じ、かな?」
華凛はなんとなく説明をした。
正直、親しい訳でもない会ったばかりで数分しか顔を合わせていない相手など細かく覚えていなかった。
「ん・・・なんか分かるような気がする。なんでだろ?」
皐月は口元に握りこぶしを当てると反対に首を傾げた。
「なんか小太刀ってやつの事知ってるみたいだったね。」
華凛は琴鼓に話しかける。
「え、あ、うん。ヒスイちゃんが小太刀くんを呼び止めて、そしたら、皐月ちゃんが誘拐されたって。それで、いきなり小太刀くんが飛び出して皆で追いかけて・・・。」
琴鼓は、目線を宙に浮かせながら一つずつ記憶を辿る。
その目線に大破した華焔が入ると言葉に詰まった。
他の二人もその目線に気付き、華焔を見上げた。
「小太刀くん。大丈夫かな・・・。」
琴鼓が静かに言う。
白川グループの作業員が、なんとか華焔の操縦席を開けようと奮闘している。
「操縦席は無事の様ですから、たぶん・・・。」
皐月も静かに言う。
「でもさ、あいつ。なんでここまでやるんだ。皐月を助けるためって言っても変だよ。」
華凛は事態を思い返し、眉をひそめた。
三人がそのまま無言で見詰めている間に、事態を遠巻きに見ていたもう一つの団体が動き出した。
その団体は、白川グループの面々を押しのけ広場へとなだれ込んできた、
先頭には埃一つ許さないくらいの光沢を放つ黒のスーツに身を包んだ獣人の男だった。
「こんばんは。私、アースクリエイティブ社のものですが、ちょっとお話があります。責任者は、どなたでしょう?」
淀みの無い流れるような物言いは、この人物が常に交渉の場にいる様な役職である事を思わせた。
「責任者は私です。」
そう言いうと皐月が一歩前へ踏み出した。
「おや?貴女が?失礼ですが、ずいぶんとお若い・・・おやおや?貴女はもしや?」
獣人の男は、かけている黒縁の丸眼鏡を押し上げながら皐月をまじまじと眺めた。
「私は、白川皐月です。」
皐月が名乗ると、男は、やはりと言う代わりに指をパチンと鳴らして見せた。
「なるほど。それではここはちょっと騒がしいようですのでこちらへどうぞ。」
男が平手で指し示す方向から1台の異様に巨大なリムジンが走ってきて目の前に停まった。
「さぁ。どうぞ。」
後部座席のドアを開けると恭しく頭を下げた。
「ちょっと待って!あたしも同席する。」
華凛が皐月の前へ出る。
「おや。まぁ構いませんよ。どうぞ皆様でお乗り下さい。」
男はその場にいた3人を見回すと微笑む。
その僅かに開く口元からは鋭い犬歯が覗いていた。
乗り込んだリムジンの中では、驚きの人物が3人を待っていた。
車内は、どこかの豪邸の一室かと思わせるくらいに白くてフカフカした床に、真っ白なソファー。
天井にあるシャンデリアは一粒一粒が宝石の様にキラキラ輝いている。
そしてその奥にはシャンデリアよりも眩い光を放つ宝石と明らかに高級だろうと思われる滑らかな生地のドレスに身を包む一人の女性が座っていた。
パールホワイトの髪。
クリンとした大きな瞳と少し小さめの鼻にアヒル口。
透き通る様な白い肌が、ほんのりとしたピンク色の頬を際立たせている。
「貴女は・・・。」
見覚えのあるその顔に琴鼓は呆然と呟いた。
目の前に座るのは数日前に甘味処で出会った女性。
アースクリエイティブ社へ復讐するべく新規のロボットチームを立ち上げ、いきなり、琴鼓をスカウトしてきた女性。此ノ花ララだ。
「皆さん。お久しぶりです!さぁさぁ!こちらへいらして下さい。琴鼓さんは私の隣へ!お二人はこちらの方へどうぞ!」
ララは、愛らしい笑顔で三人を手招いた。
「あの。皆さん色々とお疲れでしょうから御飲物を用意させて頂きました。どれが宜しいですか?えっと、ジュースがアップルとグレープフルーツとそれからパイン&キウイが有ります。暖かい物ですと、紅茶はストレートとミルクが有りますよ!あら・・・ちょっと随分種類が少ないわね・・・。ごめんなさい、後でキツく申し付けておきますね。」
「ちょっと待ちなさいよ。あんた、あの時の奴だよね。」
華凛が凄みの効いた低い声で言う。
ララはその声にビクリと体を震わせると大きな瞳を潤ませながら目を逸らした。
「あ、あの。そんな怖い顔をなさらないで・・・ください。」
「あんた。アースクリエイティブ社の人間?しかもただの社員じゃないよね?あの時あんたはアースクリエイティブ社に復―。」
「天地華凛様。大変申し上げ難いのですが。」
華凛の言葉を遮る様に、先程三人を招いた男の獣人が割って入った。
「目の前にいらっしゃられる方は、アースクリエイティブ社現社長ユリシス・ユランディルの御息女にあらせられます。決してご無礼の無きよう。」
そう言うと男は恭しくお辞儀をして見せた。
「え?御息女・・・社長の?」
琴鼓はララを見詰める。
ちょっと照れ臭そうにララは微笑み返した。
「あ!そっか!」
皐月がいきなり何か閃いた様に手を叩く。
「なによ?」
怒りの行き場に迷う華凛がイライラした口調で言う。
皐月は二人を手招くと耳元で囁いた。
「え・・・あ!」
まずは華凛が驚きの声を上げた。
「え?どういう事?」
一回で理解できなかった琴鼓の耳元で再び皐月が囁く。
「ええええぇ!そうなの!?」
弾けるように背もたれにぶつかると、ララの顔をマジマジ見詰めた。
ララは白い肌を見事にピンク色に染め両手で顔を隠した。
「ララさんが・・・お姫様!」
思わず琴鼓は大声で叫んでしまった。
読んでいただき有難うございます。
この作品は不定期更新ですが頑張って終わりまで投稿致しますので続きを見掛けたら読んでいただけたら幸いです。




