ショータイム ①
悠然と立ちはだかるピンク色のロボットからは明るい歌が大音量で流れ続けている。
操縦席には興奮気味の琴鼓。周りには唖然とする琴鼓の知り合い達。
そして、ロボットアイドル『メリエル・ラスティエール』の新曲イベントと勘違いするファン達。
その他、事態を読み取れない人々多数。
状況は、混乱していた。
「なんだこいつ?邪魔しやがって・・・。」
小太刀が苛立つ。
「戦いを止めてロボットを降りてください!」
それを煽るように琴鼓が叫ぶ。
「あの子なにやってんの!?」
華凛が真っ青な顔で皐月へ振り返る。
「琴鼓ちゃん・・・?」
皐月も目を見開き小刻みに体を震わせていた。
そんな二人をよそになおも琴鼓の説得が続く。
「戦いを止めて下さい!」
だが、戦いの気に飲まれている小太刀にはその言葉が届くことは無かった。
華焔は刀を琴鼓のロボットへ真直ぐ向けると、体を捻りゆっくりと腕を後ろへ引く。
水平に構えた刀は突きを狙っている。
「琴鼓!危ない!早く逃げて!」
華凛が叫ぶ。
そんな間も無く華焔が動いた。
一瞬で間合いを詰めた華焔の力強い踏み込みで地面が揺れる。
同時に、捻って窮屈だった体が一気に開放されると水平に構えられていた刀が空を裂く。
耳をつく甲高い音が広場に響いた。
「琴鼓・・・。」
思わず目を伏せた華凛と皐月がゆっくりと顔上げる。
片腕の華焔は刀を真直ぐ突き立てている。
だが、その刀の先には何も無かった。
「避けた・・・だと・・・。」
小太刀が驚きの声を上げる。
琴鼓のロボットはその場にしゃがみ込み、間一髪華焔の突きをかわしていたのだ。
「え?あれ・・・助かった?」
無我夢中で動かした内容はすでに頭の中から吹っ飛んでいた。
とにかく、迫ってくる華焔に反射的に体が動いた感じだ。
「こいつ!」
小太刀が怒りに満ちた目を見開いた。
当然格下と思っていた相手に手を抜いていたとしても避けられるとは思ってもみなかった。
華焔は怒りに任せ刀を振り上げた。
「うわ!やばい!」
琴鼓はかわそうとロボットを慌てて後退させようとするが、華焔の振り下ろすスピードが勝っていた。
「きゃあぁぁぁ!」
琴鼓は悲鳴をあげ顔を背ける。
完全にやられた。
そう思えた。
だが、刀は捕らえたはずの頭部を大きく外れ地面へと突き刺さった。
「え・・・なに?」
琴鼓がそっと目を開けるとそこには刀だけではなく、柄を握る腕もくっ付いていた。
「うわ!な、なんで?」
琴鼓は慌ててロボットを華焔から遠ざける。
見ると華焔の右腕は肘から先が無く、火花を散らしていた。
その腕を不思議そうに見詰める華焔。
「狙撃か・・・。」
小太刀が呟く。
その目は鋭く中央公園を遥か離れたビルを見詰めていた。
「琴鼓!今のうちに逃げて!」
華凛が叫ぶ。
そこに大破したロードオブランサーへ向っていたアトラが千之助を抱えて戻ってきた。
「千之助!」
皐月が駆け寄ると千之助は力なく微笑んだ。
千之助は生きていた。
仮にも数々の死線を越えてきただけのことはある。
ランスが突き刺さる直前体を捻りギリギリ操縦席から外していたのだ。
「申し訳ありません。お嬢様。すべて私の責任―。」
皐月は千之助を強く抱き締めた。
「お嬢様・・・。」
「後でたっぷり叱ります。だから、早く病院へ行きなさい。」
皐月は千之助を突き放すと涙を袖でグイと拭いた。
「アトラ。千之助をお願い。」
「はい!」
アトラは千之助を車に乗せると広場を去った。
それを見送ると、皐月は決意に満ちた目で華凛を見詰めた。
「皐月・・・?」
華凛が見詰め返した。
この間も琴鼓が操縦するロボットと華焔は距離を空け、睨み合いを続けていた。
「どうしよう。もう戦う必要ないのに。」
汗が琴鼓の額から頬を伝い流れ落ちる。
両手を失ってもなお気迫に満ちた華焔に琴鼓は説得も攻撃も出来ないでいた。
その時、通信を知らせるアラームが機内に響く。
「・・・ちょっと。そこのピンクの。」
聴こえてきたのは女性の声だ。
「え?あ、はい?」
思わぬ通信に焦って答える。
「・・・どういうつもり?そんなイベント用で戦う・・・?すっごい・・・邪魔。」
「えっと、でも・・・。」
「・・・アタシ関係ない、けど、訳あって手伝う、つもり。サクサク終らせたい。どいて?気が散る。」
横柄な態度のその女性。琴鼓には聞き覚えがあった。
「・・・聴いてる?」
女性の声。
「あれ・・・?ヒスイちゃん?」
「・・・・まじ?あんた・・・。」
「だよね?私、琴鼓だよ!藤林琴鼓!」
「・・・でたよ・・・マジ?あんたバラエティ専門でしょ?そんな・・・馬鹿?」
通信モニターに呆れかえったヒスイの顔が写った。
「やっぱりヒスイちゃんだ!どこにいるの?」
「・・・話聴いてないし・・・。あんたから見えない。アタシ、狙撃手だから。」
数百メートル離れたビルの屋上。
ヒスイはそこにいた。
操縦するロボットは、ロボットと言うよりも半球の様な物体だ。
その半球ロボットの前部から細長いスナイパーライフルの銃身が飛び出ている。
「・・・それより、目の前の馬鹿、どうにかしないと。」
ヒスイが大きく溜息をつく。
「あ、うん!でも・・・小太刀くん全然答えてくれないんだ・・・。」
「・・・かなりいっちゃってる。・・・阿呆だ。」
苦笑いするヒスイ。
「どうしよう・・・。」
不安そうな琴鼓。
「・・・とりあえず、離れて。あんたじゃ勝てない。」
「でも!」
「・・・でもじゃない。・・・邪魔。」
「でも・・・。」
「・・・ふぅ・・・ダラダラしてる暇ない。」
「それじゃ・・・ヒスイちゃん!私が気を引くからなんとか足止めして!お願いね!」
「・・・!?・・・馬鹿!?」
琴鼓は早口でそう告げると、ヒスイの静止も聴かず華焔へと一歩踏み出し、両手を広げた。
「・・・遊びじゃない!下がれ!」
ヒスイが怒鳴る。
「ごめんね。どうしても何かしたいの。それに、二人の方が絶対良いって!」
そう言うと琴鼓はモニターへ向った親指を立てウインクをして見せた。
「・・・いや。ちょっと待っ―。」
「大丈夫!任せて!いくよぉぉぉ!」
有無を言わさず琴鼓はロボットに搭載されているあるシステムを起動させた。
「ダンスモードに移行します。6号機をリーダーとして承認。隊列を組み直しますか?」
操縦席に音声が流れる。
「イエスっと!」
琴鼓は表示された確認ボタンを押した。
「・・・どうするつもり?」
ヒスイが問い掛ける。
「大丈夫!ヒスイちゃんは狙撃に集中してて。3と4号機と5号機は、こっちで・・・次は・・・うん!これだ!」
自信満々の琴鼓が次に手を付けたのは、選曲だった。
流れていた明るいリズミカルな新曲を止め、ロボットアイドル『メリエル・ラスティエール』記念すべきファーストシングルのリミックスバージョンを選んだ。
恋愛バラードをテクノポップ調にアレンジした曲だ。
そうしているうちに、広場の外に並べられていた十一体の同型機ロボットが、ファンを押し退け集まり、総勢十二体のロボットが三体づつの隊列を組んだ。
前に琴鼓が操縦する6号機を中心に三体。左右斜め後ろに三体づつ。
真後ろに三体づつ。
上空から見れば1点に三体づつのひし形状フォーメーションだ。
その様子に、華焔が身構える。
いつでも蹴り出せる低目の体勢だ。
沸き立つファンには、いよいよこの事態がイベントの演目だと思わせた。
だが、観衆の中に事態の本質を知る華凛も皐月も護衛していたレインの姿もいつの間にか無かった。
「ダンスバージョン2を起動します。隊列が組み終わりました。開始いたしますか?」
操縦席には確認の音声が流れる。
琴鼓は、目を瞑りゆっくりと深呼吸すると力強く答える。
「オッケィ!よぉーし・・・スタァート!」
流れ出した曲にファンの魂が一気にヒートアップする。
後方三体ロボットの内、両端のロボットが両腕を上げると上空へ伸びていき、スポットライトとなった。
次に、左右端のロボット2体の頭部・胸部・両肩からレーザーが広場を駆け巡ると、そこに立体映像のステージが浮かび上がった。
さらに、後方真ん中の一体から人物が立体映像で映し出された。
その人物こそが、今をときめくロボット界のスーパーアイドル『メリエル・ラスティエール』本人だ。
彼女は、体のラインが良く分かるピッチリとしたパンツにTシャツとジャケット。
シンプルな服装を煌びやかなアクセサリーで着飾っている。
フワフワした可愛らしい服装がメインの彼女には珍しいスタイシッリュな雰囲気に、ファン達のボルテージがさらに上がる。
彼女のダンスと共に琴鼓が操縦するロボットを含め残り7体のロボットが同じダンスを始める。
ロボットダンスの様な独特な動きがテクノポップ調の曲と良く合う。
そして、歌声が流れ始めた。
読んでいただき有難うございます。
次回、コンサート開始!果たして暴走する小太刀を止められるのか・・・。
次話も読んでいただけたら幸いです。




