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鎧武者 ②

「猛る魂!天を焦がせ!・・・来ぉぉい!華焔かえん!」


小太刀が吼える。

呆気に取られる二人。

次の瞬間、軽く地震の様な揺れが起こったと思うと、交差点から数軒離れたボロボロの小さな倉庫の屋根が爆発して吹き飛んた。

燃え上がる炎の中、ゆっくりと起き上がる影。

揺らめくオレンジ色の炎に照らされたそれは、まるで鎧武者の様な姿をしたロボットだった。

炎よりも濃い真っ赤な二つ瞳がギラつく。

ロボットは倉庫の壁に手をかけると立ち上がり、わずかに残る倉庫の出入口付近の壁を物ともせず道路へ向け歩き出した。

狭い倉庫から開放されたロボットはまるで伸びをするかのように胸を反らせる。

その横を倉庫から中年の男が転がるように飛び出し一目散に逃げ出した。

どうやら裏でロボットを流していた人物の様だ。

ロボットがゆっくりと道路まで出てくると、さらにその姿が明らかとなった。

鎧を着た武者というよりも、鎧そのものという方が妥当であろうか。

大きな刀を腰に差し、左腕には覆うように四角い盾を装備している。

ロボットは呼吸するようにゆっくりと肩を上下させると、次の瞬間、小太刀へ向けて走り出した。

蹴り上げた道路が足の形に捲れ上がり後方へ吹き飛ぶ。

かなりの速度で小太刀がいる交差点へ向ってくる。


「うおおおおおおおおおおお!」


走るロボットに同調する様に小太刀が吼える。

ロボットは速度を落とすことなく交差点へ差し掛かると、機体を斜めに傾け白い車が進んだ方向へ急旋回した。

すかさず小太刀がロボットへ飛びついた。

ロボットは速度を落とさず突き進んでいく。

小太刀は大きな揺れの中、背中へよじ登ると操縦席へと潜り込んだ。

力強く息を吐き出し、勢い良く目の前にある操縦桿を掴むと暗かったコックピット全面に外の映像が鮮明に映る。

ロボットの自動操縦は解除され、小太刀の操縦桿がズシリと重みを増した。


「何処へ行った・・・白い車・・・。皐月さん!今助ける!」


ロボットのスピードがさらに増すと交差点で圧倒されている二人の視界から消えていった。


「ちょ、あれ・・・道路壊してるけど・・・。」


華凛は巻き起こった砂煙を払いながら振り返ると、そこにいたはずのヒスイは居なくなっていた。


「あれ・・・何処行った・・・。」


訳が分からずキョトンとしている華凛に遠くから声が聞こえてきた。


「・・・華凛ちゃ~ん!」

「琴鼓?」


周りを見渡すがどこにも姿は見えない。


「華凛ちゃん!こっち!」

「へ?え!なにやってんの?琴鼓!」


交差点に止まっている白い車。

その後部座席の開いた窓から琴鼓は身を乗り出して手を振っていた。

駆け寄る華凛。


「琴鼓・・・この車って・・・。」

「そうだよ!千之助さん達だったんだよ!皐月ちゃん連れて行ったの!」

「え・・・ええええええ!?」


徳田千之助。

60歳。

琴鼓が乗っている白い車を運転している人物だ。

琴鼓や華凛も良く知る人物で、白川グループ皐月専門の護衛班のリーダーだ。

そして、白い車は皐月愛用の移動車なのだ。

琴鼓と共に後部座席に乗り込んだ華凛は千之助に詰め寄る。


「皐月は!?どこ?」

「皐月お嬢様は寝台車にて御休みで御座います。あらかたの事情は琴鼓様から伺いました。我々は、奥様からホテルを抜け出した皐月お嬢様をお連れするように託って参りました。まさかお連れの方がいらっしゃったとは存じませんでした。パーティーまで時間がありませんでしたので、少々強引お連れしたのが不味かったのです。皐月お嬢様の話も聴かずに・・・。私とした事が皐月お嬢様に申し訳ないことをしてしまった。」


そう言うと千之助は真っ白なハンカチを取り出すと涙を拭った。


「なんだ・・・てっきりホントに誘拐されたと思った。」


華凛は豪華な座席にぐったりと座り込んだ。


「良かったぁ~。私もてっきり・・・。小太刀くんの勘違いだったんだね。」


琴鼓は投げ出した両足をパタパタさせた。


「・・・・あ・・・・。」


華凛の脳裏に嫌な予感が浮かんできた。

ゆっくりと起き上がり琴鼓とバックミラー越しに千之助の目を交互に見詰める。


「やっばい・・・絶対ヤバい!千之助さん!すぐに追いかけて!」


華凛が叫ぶ。

皐月が寝台車で移動する時は必ず千之助が最後尾を受け持つ。

という事は先に進んでいるのが皐月の乗る寝台車。

それを追いかけながら街を破壊しているのが勘違いの小太刀が操縦する鎧ロボットなのだ。


「では、その少年は皐月様を助けようとしているのですね・・・。なんという事だ。」


華凛の話しを聴いた千之助はハンドルを強く握り締めた。


「まずは、寝台車へ連絡を取ってみましょう!」


千之助は小型のヘッドフォンを耳に掛けると寝台車へコールした。


「はい。こちら寝台車。どうかしましたか?」


落ち着いた女性の声。

寝台車の護衛は睡眠中の無防備な皐月の為に女性だけで構成されている。


「千之助です。お嬢様はお休みになられていますか?」

「はい。実に心地良さそうに眠られています。」


少し笑みの含んだ声。

千之助の顔にも少し笑みが零れるが、すぐに緊迫した顔で話出した。


「良いですか。落ち着いて聴いて下さい。」

「はい?」

「詳しい話は後でしますが、今、その寝台車を狙って一体のロボットが向っています。」

「え!ど、どういう事ですか?」


明らかに動揺する女性。

話を聞いている他の女性メンバー達のざわめく声も背後から聴こえて来る。


「とにかく!すぐにロボット班を呼びます。貴女方は中央公園へ向ってください。我々もすぐに―。」


千之助が言い終わる前にヘッドフォンから轟音が聞こえてきた。


「きゃー!」


女性メンバー達の悲鳴。


「どうしました!?」


千之助の問い掛けに混乱する女性が答える。


「ロ、ロボットです!追って来ます!鎧の・・・キャー!」

「中央公園までなんとか逃げ切って下さい!すぐに向かいます!」

「は、はいぃ!」


すぐに回線を切り替えた千之助はロボット班の出動を要請した。



「それじゃ隊長!そのロボット操縦者を傷付けずに止めろと?抵抗されたら・・・。」


あらかたの状況説明に通信相手の若い男性隊員が慌てた声で答えた。。


「まずは接触して通信を試みてみます。」


今度は若い女性隊員が落ちついた口調で答えた。


「お願いします。それと私のロボットも中央公園へ投下して下さい。」


千之助が口早にそう言い切ると男性隊員がさらに慌てた声で返答する。


「隊長が出る必要ありません!俺達だけでなんとか出来ますよ!」

「いえ、こうなったのも私の責任です。彼はただ心優しい青年なのです。」

「し、しかし!」

「お願いします。」


千之助が静かに言う。


「解りました・・・。おい!隊長のロボットを準備しろ!急げ!」


若い男性隊員との通信が切れた。


「隊長。万が一、投降に応じなかった場合にはロボットの破壊をお許し下さい。」


若い女性隊員が静かに言う。


「レイン。その時は、私が・・・。」

「はい・・・。」


通信が切れた。


「千之助さん・・・。皐月ちゃんも小太刀くんも大丈夫だよね?」


琴鼓の顔に不安が滲む。


「はい。皐月お嬢様には危険は無いでしょう。小太刀様も救出が目的の様ですし。ただ、護衛の者達と、それに、このままでは街が破壊され、小太刀様も罰せられる事になってしまいます。これ以上の被害を出さない為にも我々で止めなくてはなりません。大丈夫ですよ。琴鼓様。我々も飾りじゃ御座いません。」


そう言って千之助はバックミラー越しに微笑む。

しかし、琴鼓は俯き両手を握り締めていた。


「琴鼓?」


華凛が声をかける。


「私に出来る事・・・。何かしなきゃ・・・。」


琴鼓が小声で呟く。


「千之助さん!車止めてください!」

「え?は、はい!」


急に琴鼓に大声で言われ千之助は思わず車を路肩へ寄せた。


「あ!千之助さん!止めちゃダメ!琴鼓あんた!」


華凛が叫ぶ。

だが、時すでに遅し。

車が停車すると琴鼓は飛び出した。


「待ちなさい琴―。」


華凛の声はドアが閉まると聴こえなくなった。

読んでいただき有難うございます。次話も読んでいただけたら幸いです。

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