出会い ③
小太刀が人目もはばからずに土下座して、皐月に感謝の言葉を大声で叫んでいる頃、琴鼓と華凛は会場内でレース部門準決勝を観戦していた。
興奮した琴鼓が3杯目の飲物を溢した時、優勝候補の『ブルーキャット』がぶっちぎりのゴールを決めていた。
「かっこいぃぃ!ねぇねぇ今の見た?ブルーキャット!」
琴鼓がバシバシと華凛の太ももを叩く。
「痛いって!自分の太もも叩けって言ってるでしょ?」
「あ、ごめん。なんか興奮しちゃって。」
舌を出して自分の頭を軽く小突く琴鼓に華凛は大きく溜息をついた。
「あんた昔っからああいうロボット好きだったよね。なんだっけ・・・ブラックなんとか。」
「ブラックタイガーだよ!忘れるなんて常識的に有りえないよ!」
「そりゃあんたの常識でしょうが。」
「あの人工筋肉で出来た機体の美しさ・・・ロボットなのに野生の息遣いを感じるよ。」
鼻息荒く両手を握り締めて話す。
「ブルーキャットも惜しい感じだよ~。とってもしなやかで綺麗なんだけどブラックタイガーほど野性味が無いんだよね~。それにね!」
話が長くなりそうな予感に華凛がパッと琴鼓の口を押さえた。
「あ~、あたし、あんま興味無いから。それよりもそろそろ出るよ。夕飯その辺で食べたら皐月迎えに行かないと。」
「も~ふぃ」
口を押さえられたまま琴鼓が詰まらなさそうに答えた。
今日はこれで最終競技が終わり、会場ではインタビューや優勝予想などのイベント行なわれていた。
二人は少し早めに出たつもりだったが出入り口はすでに帰宅者で混雑していた。
その人の流れは飲食街に溜まり、夕飯どころの話では無かった。
「もう!なんでって今日はこんなに混んでるんだ!」
華凛がイライラしている。
「決勝の準備で今日は早く競技終わったからみたいだよ。」
琴鼓が人波をなんとか掻き分けながら華凛に付いて来る。
「琴鼓!ちょっと避難!」
華凛は琴鼓の手を取ると路地裏へと逃げ込んだ。
「ふぅ・・・こりゃまいった。」
「夕飯どうしよう・・・お腹減った・・・。ん?」
一息ついた二人の耳に路地裏の奥からなにやら言い争う様な声が聴こえてきた。
「華凛ちゃん・・・。」
「ん・・・なんだろうね?ちょっと見てみるか。」
「え~・・・やめようよ・・・。」
「面白そうじゃん?ちょっと覗くだけだよ。」
嫌がる琴鼓を押しのけ、店の角からそっと覗いてみる。
「おい!クソガキが!なんとか言ってみろよ!」
華凛の目に映ったのは、屈強な男達の背中越しにすごんでいる太った男の後ろ姿だった。
「さっきはよくも恥じかかせてくれたな?女だからって容赦しないぞ?ええ?こら!黙ってんじゃねぇぞ!俺を誰だと思ってやがる!」
誰だかさっぱり分からない太った男は安全な場所に隠れながら手を振り上げている。
「なにあれ・・・明らかに悪党じゃん。こっからじゃよく見えないな。」
華凛がジェスチャーで回り込もうと合図する。
琴鼓は頷き静かに後ろへ下がる。
ドンッ
「痛ッ!」
琴鼓は何かにぶつかりゆっくりと振り返る。
「ガキ・・・。なにしてるんだ?」
小柄な男がいやらしい顔で琴鼓を見詰めていた。
「琴鼓に触るな!」
すかさず華凛が琴鼓をかばう。
そんな華凛をジロジロ見ながら小男はジリジリと詰め寄って来た。
少しずつ後ろに追い詰められ、二人は太った男がいる店裏へ押し出された。
「インゴラムさぁん!なんかこいつら覗いてたんすけど?どうします?」
小男が突然大声で誰かに呼び掛ける。
「ああん?んだぁ?そっちも小娘か・・・。おめぇの好きなようにしろ。」
小男の問い掛けに答えたのは、先程から喚いていた太った男だった。
「へっへっへ。インゴラムさんのお許しが出たぜ。」
涎を拭うような仕草をした小男がさらに詰め寄ってくる。
華凛は怯える琴鼓をチラリと見ると深く深呼吸をして体勢を低く身構えた。
「おぉ?やんのか?ヤッちゃうよ?ひっひっ―ひぐッ。」
小男が笑い顔のままゆっくりと前のめりに倒れる。
華凛は息を吐きながら拳をゆっくりと引く。
高笑いする小男のみぞおちを鋭い突きで貫いたのだ。
「しゃべんな。小物。」
冷ややかに見下ろす華凛の目に次の目標に映る。
インゴラムはそれに気付かずまだ喚いている。
華凛が一気に詰め寄ろうと前屈みになり踏み出そうとした次の瞬間。
「こ、このガキ!なんてものを!に、逃げろ!」
男達の誰かが叫び、蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。
「お、おい!待てお前ら!金払っただろう!うあ!」
インゴラムが男の一人に突き飛ばされ尻餅をついた。
一人残されたインゴラムの目の前には少女が一人。
右手でショットガンを持ち左手では手榴弾らしき物を軽く上に投げて弄んでいる。
「・・・ふぅ。あんたみたいのホント嫌い。」
少女はゆっくりとインゴラムに近づくと、その肥えた腹にショットガンの銃口を押し当てた。
「・・・次、内臓吹っ飛ぶよ?」
そう言うと少女はインゴラムの足を強く踏みつけ、そのまま横を通り抜けた。
インゴラムは、立ち上がると情けない悲鳴をあげて逃げ出した。
「・・・?あんたら被害者?」
少女は琴鼓と華凛の元へ近づいてくる。
「まぁそうだけど。あんた何者?被害者なんだか加害者なんだか・・・。」
華凛が怪訝な顔で言う。
「・・・ふふふ。こう見えてアタシ被害者だけど?」
「ずいぶんな絡まれ様だけど、何したの?」
華凛がアゴでインゴラムのいた場所を示す。
「・・・なにも。こいつ酔っ払って絡んできたから軽くあしらったらこうなった。」
「まぁそれは納得出来そうだわ。やけに物騒な物持ってるのはちょっと引っかかるけどね。」
「・・・これ?商売道具。」
「商売・・・?まさか殺し屋なんて?」
「・・・アタシみたいな可愛い女の子が?・・・出来すぎでしょ?」
「自分で言う?可愛いかは別として女の子が持つ物じゃないよ。」
「・・・てか、初対面で色々深くまで聞きすぎ。・・・それに・・・こいつ、なに?」
少女は腕組みをしたまま横目で見る。
そこにはずっと無言のまま目を丸くした琴鼓が至近距離で見詰めていた。
「ああ・・・友達・・・。」
「・・・ふ~ん・・・で?なにしてんの?」
「さぁ・・・?琴鼓。なにしてんの?」
なんとなく察しは付いているが華凛は尋ねた。
「華凛ちゃん!この子すごいね!かっこいいぃ!」
大きく溜息をついた華凛が少女に苦笑いしてみせる。
「場所。変える?」
3人が落ち着いたのは人気の無い喫茶店。
どこも混雑していて仕方なくといった感じだ。
目の前に出されたパンケーキは作り置きしてあったのだろう、レンジで温め直した時に出た水蒸気で下面がふやけていた。
さすがにお腹も減っていた琴鼓と華凛は無理やり胃に詰め込んだ。
「・・・よくこんなの食えるね・・・。」
少女はフォークで突付き回すだけで結局一口も食べなかった。
「ところでヒスイちゃんはなんで武器商人してるの?」
琴鼓は食後のミルクティーを啜りながら聴いた。
少女はヒスイ・ローエンハルトと名乗り、自分は武器職人だと言う。
「・・・商人じゃない職人。人間用は趣味。ロボット用の遠隔武器を作ってる。」
ヒスイは少し長めの金髪をツインテールに纏めている。
歳は、幼い容姿とは違い琴鼓たちより3歳年上の19歳だと言う。
「へぇ~。ここに来てるって事は、どこかのスポンサー?」
華凛はアイスレモンティーの氷をストローで回しながら尋ねた。
「・・・ちがう。こう見えて選手。」
「まじで?どの部門?」
「・・・シューティング。」
「ほんとに!?」
「・・・?そんなにテンションあがる事?」
琴鼓が目をキラキラされてヒスイの顔を見つめている。
「・・・あんたら学生?気楽で良いね。」
ヒスイは学校へ行っていない。
幼少の頃から父親が営む小さなロボット武器工場の手伝いばかりしていた。
もちろん自分もその工場を継いでいくものとばかり思って。
結局は現時点では工場を継いでいないとの事だが、その理由は語らなかった。
「ねぇねぇ。ヒスイちゃんはどこかチームに入ってる?」
琴鼓は、かき混ぜたホットミルクティーの渦を見詰めながら尋ねた。
「・・・?入ってない。別に入りたいとも思わない。アタシは武器の性能を確かめるのが目的だから。」
「ふ~ん・・・。そっかぁ・・・。」
「・・・?」
琴鼓の煮え切らない反応にヒスイは顔をしかめて華凛を見る。
「う~ん。この子一応バラエティ部門の出場選手なんだけどね。まぁ腕前はアレだけど・・・。そんで最近ある女に声をかけられて―。」
華凛はそこでのやり取りを話して聞かせた。
「―で、この子のやる気は分かるんだけど、どうも胡散臭くてね。」
「・・・。よく分からないけど良いんじゃ?獣人の貴族なら金の心配無さそう・・・。入ったら武器の注文くらいなら受ける。」
ヒスイは椅子に踏ん反り返ると足を組んだ。
その時、歩道を駆けてきた黒髪の青年が店の前で立ち止まる。
周りをキョロキョロ見回し、汗を拭う姿は明らかに何か緊迫していた。
「・・・?あいつ・・・。」
窓の外をウロウロする青年を見付けたヒスイが呟く。
「ん?どした?」
ヒスイの様子に気が付いた華凛が声をかける。
「・・・ちょっと。」
ヒスイはそう言うと席を立ち店の出入り口から顔を出した。
「・・・あんた。さっきの奴?どうかした?」
声をかけられた青年が振り返る。
「君は、さっきのやな奴。」
ヒスイが思わずズッコケそうになるのを堪えた。
「・・・その呼び方・・。てか、彼女は?」
その問い掛けに青年は悔しそうな顔で俯いた。
「連れ・・・去られた。」
読んでいただき有難うございます。次話も宜しければ読んでいただけたら幸いです。




