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第1幕 1章 罪悪感

1章 罪悪感



「やめてくれ!」

 と一人の男が叫ぶと同時に騒々しい銃声が響く。

 空薬莢の落ちる音が屍だけの静寂に虚しく響きわたる。

 仕事を終えた俺は車に乗り込もうと歩き始めた。すると、ふと何かを踏んだような感触を覚えた。

 始めは薬莢を踏んだのだと思ったが、その薄さと小ささにそれでないことがわかった。

 足をずらしてみると、それは銃につけているライトの光に鈍く反射した。

 どう見ても薬莢ではないと不思議に思った俺はそれを拾い上げて詳しく調べてみることにした。

 その瞬間、俺は仕事では絶対に感じることの無かった罪悪感に襲われた。

 それには、少なくとも自国の言語ではない文字でなにか2文字刻まれていた。

 丸く輪のような形状、そして、その内側に彫られた文字。そう、これは正真正銘指輪だ。

 俺は初めて、戦場で思考が停止した。頭が元に戻ったのは、頬を伝う涙の感触に気付いたときだった。

 俺は初めて、戦場で涙を流した。少なくとも、俺が作り上げた屍の中に1人、既婚者がいたのだ。

 これは、俺が一番恐れ毎回あるはずがないと目をそむけてきたことだった。

 これは、俺が一番憎んできたことだった。

俺は、5年前、妻を戦場からの流れ弾で失った。

 それは、無慈悲に妻の頭蓋骨を貫通しそのまま、妻の真似をするかのように静かに地面にめり込んだ。

 どこかの無関係な戦争の所為で彼女は死んだのだ。

 そして、この作戦でどこかの妻は、夫を失った。

 この俺の銃撃の所為である女はなす術もなく夫を失った。

 俺は、初めて、自分が傭兵であること憎んだ。

 俺は、初めて、戦場で銃を憎んだ。

 俺は、初めて、人を殺すことの罪悪感を知った。




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