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5-5

 宮殿からの帰り道、ナタリアはデュークとテスに何度も頭を下げた。こんな形で巻き込んでしまった二人にはあまりにも申し訳なく、何と謝ったらいいのかわからなかった。

 しかしデュークは身を縮めているナタリアに気にするなとばかりに笑顔を向けてくれた。


「まあ、このまま士官学校に通い続けるのも、僕にとっては苦痛だったしな……。第一、父上が陛下に頼んでいたと言うのだから、それこそお前のせいではないだろう」


「その通りですよ、ナタリア様。何もあなたが気に病まれる必要はないのです。我が主がナタリア様のことが心配で堪らないように、わたくしもそんな主が心配で堪らないのです。大切な人を常にお傍にて見守りたいと願うのは、ごく当然のことでしょう」


「うん……ありがとう?」


 正直ナタリアにはテスの言っていることがよくわからなかったが、どうやら許してくれているようだということはわかったので、一応微笑み返しておいた。


「それにしても、僕たちを皆まとめて抱え込むとは、陛下も思い切ったことをなさる……」


 ため息混じりに空を見上げたリュシアンが感慨深そうに呟く。その横顔を見ながら、ナタリアも同じようにため息をついた。


「そうね……。わたしたち皆明日から兄さんの部下だなんて思い切るにも程があるわ……」


 ナタリアの言葉に同意するような一同の重々しいため息が重なる。

 その沈んだ空気の中、ラファエルが一人楽しそうな声を出した。


「俺はナタリアと一緒にいられるなら細かいことは気にしねーけどな。国王の許しも得たことだし、これで堂々と主従として互いの仲を深められるぜ」


 そのままナタリアの手を取り、ごく自然に唇を寄せるラファエルに、すかさずナイトが横槍を入れる。


「貴様はもう少し色々なことを気にした方がいいのではないか? それとも、歳をとると図々しくなるものなのか」


「お前こそ、仮にも名前は『騎士様(ナイト)』なんだし、年寄りを労わる優しさを身につけた方がいいんじゃねーの?」


「ほう。年寄り扱いして欲しいというなら、喜んでそうしてやろう――今すぐ隠居するがいい!」


「へえ……近くで見ると、やっぱり山羊って目が死んでんのな」


 わいわいと騒ぎながら歩くナタリアたちを一歩引いたところから見守っていたラビが、誰にも聞こえないような声でぽつりと呟く。


「……わたし、こんな人たちとこれからずっと一緒なんて嫌だな……」


 それは心の底から実感のこもった一言だった。


 なんだかもうよくわからない言い合いになりつつある二人の間にナタリアが仲裁に入る。


「もう! いい加減にしなさい二人とも! まったく、昨夜から休んでいないっていうのに、どうしてそんなに元気なのよ」


 思わず小さな欠伸を漏らすと、隣にいたテスが目ざとくナタリアを見下ろして微笑んだ。


「……お疲れのご様子ですね。結局昨夜は一睡もできなかったのですから、無理もありません」


 見なかった振りをしてくれたらいいのにと内心で頬を膨らますナタリアだったが、すぐに二つ目の欠伸が襲ってきて、慌てて口元に手をやる。テスはそれを見て面白そうに目を眇めた。

 ナタリアの欠伸に気が付くと、ラファエルが嬉々とした声を投げて寄こした。


「ナタリア、今夜も俺が一晩中一緒にいてやるからな」


 その言葉に、男共はそれぞれの反応を返す。


「……ほう」


「嘘……だろう……?」


「ナタリア! お兄ちゃんのいない間にそんな不良少女に――!」


「姫様、どういうことなのか、きちんと説明していただけますか……!?」


 一瞬にしてこの世の終わりが来たかと思うほど暗いオーラを背負い込んだ男たちに、ラファエルは容赦のない追い討ちをかける。


「説明も何も、言葉の通りだぜ。俺とナタリアは一昨日の夜、ベッドの上で互いの孤独を埋めるように熱い抱擁を交わし、その後――」


「ちょっとラファエル! 誤解を招くような言い方しないでよ!」


 さすがにナタリアが必死の形相で止めに入ったが、亀の使役中はそんなことでは動じない。どうやら、相当に面の皮が厚いらしい。


「? なに真っ赤になってるんだよ、ナタリア? 俺と抱き締め合ったのは本当のことだろうが」


「本当だけども! 抱き締め合ったけども!」


「姫様――?」


「ナタリアお前……」


 可哀相な二人は、背景に雷鳴でも轟きそうな勢いでショックを受けている。


「違うから! 本当にそういうんじゃないから!」


 ナタリアの必死の弁明も空しく、ラファエルが眩しげに目を細めて遠くを見やりながら呟いた。


「あの後、二人一緒に朝を迎えたよな……」


「迎えたけど! 確かに気が付いたら朝になってたけど!」


「……それは、時の経過さえ霞むほど濃密な時を過ごしたということですか?」


 冷静なテスの言葉がとどめを刺した。


「ナタリアあああああああ――!」


 現実を受け止めきれなくなったリュシアンが、獣のように絶叫する。その体を支えるラビも、別の意味で泣きそうだ。


 傍から見たら、それはひどく滅茶苦茶な状況に見えたことだろう。しかしナタリアには、どんなに騒がしくても彼らがいるというそれだけで、居心地の良い場所だと思えた。


 ナイトやラファエルのこと、使役獣や魔獣、猛獣使いや混沌について……わからないことはまだまだたくさんある。これから先、色々な試練が待ち受けているのかもしれない。


(でも――)


 ナタリアは賑やかに帰途を辿る仲間たちに、温かな視線を向けた。


 超がつくほど過保護な兄と、自分のことを妹のように可愛がってくれるラビ。


 背は低いし口は悪いけれど、いつもなんだかんだで助けてくれるデュークとテス。


 自分のことを主として見出してくれたラファエル。


 そして、長い間自分のことを信じて待っていてくれたナイト。


 彼らと一緒なら、どんな毎日だって乗り越えていける。


 

 ナタリアの顔に浮かんだのは、幸福な笑顔だった。



(完)



ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。今後の参考にしたいので、感想・評価等お気軽にしていただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。

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