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5-3

 ナタリアたちが家に戻ると、目を覚ました両親が涙を浮かべてナタリアたちを迎えてくれた。


 あまりにも長い時間を混沌の中で眠るように過ごしてきたため、立ち歩いたりできるようになるにはまだ当分時間がかかりそうだったが、ベッドに半身を起こして座る元気そうな顔を認めて、ナタリアはほっと胸を撫で下ろした。


 物心ついた頃には既に両親がいなかったナタリアは、正直なところ両親とどう接したらいいのかわからなかった。もちろん無事でいてくれたことはものすごく嬉しかったが、死んだと聞かされていた両親が実は生きていて、こうして今、温かい腕で自分を抱きしめてくれていることが不思議で、いまいち実感が追いついてこなかったのだ。


 まるで夢を見ているようだった。ずっと空き部屋だった両親の寝室に、今はたくさんの人がいて、空っぽだった二つのベッドには、確かに父と母がいる。

 母ルシアがナタリアを抱きしめていた腕を緩め、涙で濡れた頬を拭うと、愛おしそうに腕の中にいる娘の顔を見下ろした。


「ナタリア……大きくなったわね。すっかり美人になって……」


 ナタリアはそのとき初めて母親の顔をじっくりと見つめた。優しく細められた目元に自分や兄に似た面影を見出し、ナタリアの胸に急速に熱いものが満ちる。


「母さん……生きていてくれてありがとう」


 ナタリアがルシアの胸に顔をうずめると、ルシアはそっと娘の髪を撫でてくれた。その優しい感触が遠い記憶と重なって、ナタリアの涙は堰を切ったように溢れ出した。


「リュシアンも、とっても凛々しくなって。今までナタリアを守ってくれてありがとう。あなたには辛い思いをさせてしまったわね……」


 母の潤んだ声に、リュシアンはただ小さく首を振った。

 それから皆で、十二年前の事件から今に至るまでのことを話した。一通りの話が終わり、過去を懐かしんで談笑する内容も尽きた頃、ジーンが神妙な声で切り出した。


「早々に、陛下への報告をせねばならないな……」


 その言葉に、誰もが体を固くし、ほぐれていた表情を凍りつかせた。

 すっかり感動の再会ムードに浸っていたが、まだすべてが終わったわけではないのだ。


「それにしても、あの陛下が御隠れになっていたとは……。ランスロットの坊主が現国王陛下とは、上王陛下もさぞご心配であろう……!」


 目頭を押さえる父の肩を抱きながら、リュシアンが何度も頷く。ランスロットは今のところ問題なく国王としての責務を果たしているので、この反応は失礼と言わざるを得ないのだが、どうやらオルブライト家の男共の間ではランスロットの評価は抜群に低いらしい。


「しかし主。そのお体では、陛下へご報告へあがることも難しいかと……」


 躊躇いがちにそう言ったのは、ジーンの使役獣フェイだ。目を覚ましたジーンが己の使役獣の無事を確認するために召喚したのだった。フェイは十二年前ジーンたちを追って混沌に身を投じたが、混沌の中で実体を保つことは叶わずに、やむなく魂だけの存在に戻り、再び主によって召喚される日を待っていたのだという。丸太のように太い腕をした屈強な体格で、もみ上げから顎にかけてワイルドな髭を生やしているという一見恐そうな外見のフェイだが、実際は大変礼儀正しく心優しいサイの使役獣である。


「主も奥方様も、今しばらくはお体を大事になさることだけをお考えください。陛下へのご報告でしたらわたくしが代わりに参ります。主たちは、体調が回復されてから改めて登城された方が良いかと」


「しかし、事情が事情だけにそうもいかんだろう……。せめて早急に陛下の下へ参じることが、我々が出来る唯一の誠意の示し方だ」


「しかし主……!」


 二人の押し問答が続きそうになったとき、不意に寝室の扉が外側から乱暴に開かれた。皆の視線が一斉にそちらへ注がれる。廊下には一般の屋敷にそぐわない銀の甲冑を着込んだ男たちが、ずらりと並んでいるのが見えた。陛下の近衛兵たちだ。

 扉を開けた兵士が号令を掛けるような固い口調で、寝室の中に向かって声を張り上げた。


「ナタリア・オルブライト! 並びに、マーマデューク・ボウヤー! 両者は速やかに帰城し、魔獣退治の報告にあがられたし! またリュシアン・オルブライトについても、王命に反し単独行動を取った釈明を早々に求められたし!」


 突然の事態に驚いて顔を見合わせているナタリアたちを急かすように、兵士はもう一度声を張り上げた。


「王城にて陛下がお待ちである! 皆速やかに帰城されたし!」


 そう言われては、ナタリアたちに二の足を踏んでいる猶予はなかった。不安そうな表情の両親を寝室に残し、ナタリアたちは仕方なくランスロットの元へ向かったのだった。

 

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