光るのち
光るのち
「結婚したら、時々洗ってやる」
恐ろしくも嬉しいことを竜軌が言う。
広い脱衣所の鏡の前、彼はドライヤーを手に持ち、籐椅子に座る美羽の髪を乾かしている。
自分で乾かす、と言う意見は容れられなかった。念入りに美羽の髪を乾かすと、ブラシで梳く。竜軌は楽しそうで、機嫌が良かった。時々耳に唇を当てて来るので、くすぐったい。
「よし。上出来」
竜軌は得意げな声でブラシを置いた。美羽の黒髪はいつも以上に艶々としている。
「次は俺の番だ」
そう言われる気がしていた美羽は、素直に頷いた。
ずんずんと手を引かれ、檜の浴槽のある風呂場に向かう。
竜軌の髪は、印象よりもサラサラしている。
エクステは下手をすると絡まるから触らなくて良いと言われた。
指に適度な力を籠め、シャンプーを泡立てると、心地好さそうに目を閉じる。
美羽の心に、ふと影が差す。
こんな幸せが長く続く筈がないと思う。
満ちた月がやがて欠けるように。予想もつかない形で失うのだ。
きっと。
失うのだ。
「……美羽。怖がらなくて良い。ずっと一緒だ」
竜軌が心を読んだように言う。
答える術のない美羽は、竜軌の髪に温かなお湯をかける。
余りに大きな光輝は彗星のように、眩しさに目を細めた次の瞬間に消えてしまう気がする。




