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笑みを生む
笑みを生む
竜軌が喉の奥でく、と笑ったので、美羽は不思議に思った。
胡蝶の間の襖は修理を終え、今は竜軌も専らこの部屋で過ごしている。
この部屋を使うのに抵抗感はないか、と問われた時、竜軌がいてくれたら何も怖くないと答えた。それに美羽はずっとここで過ごす内に、胡蝶の間に愛着が湧いていた。
〝どうしたの?〟
「いや。愚かな男でなくて幸いだと思ってな」
〝もしかしてお父さんのこと?〟
「そうだが、お前の父を貶めた訳ではないぞ」
〝わかってる。でもそういう言い方、良くないわ〟
美羽は障子戸の傍に置かれた花を指差す。
大輪のクレマチスの、淡い紫と紅が混じったような色が美しい。伊万里焼の花瓶とも相まって何とも華やかだ。
美羽に似合いの花だ、と竜軌は思っていた。
「…あの鉄線は、真白が活けたのではないのか?」
それは数日前、胡蝶の間の前に置かれていた。
〝真白さんは知らないって。きっと、お父さんが〟
「………」
美羽は嬉しそうに笑っている。
少し痩せたな、とその顔を見て思う。
「美羽。…頼みがある」
〝何?珍しいわね〟
「髪を洗わせろ」




