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裏声

裏声


 朝林秀比呂からの電話と聞いた新庄孝彰は、平静な顔で受話器を握った。

「お早うございます、朝林教授。先日はわざわざお運びいただいて。本日はどういったご用件でしょうか」

『お早うございます、新庄さん。実は先だって、私のもとに警察が来まして』

「何と。剣呑ですな」

『どうも何か勘違いされていたらしいのです。根掘り葉掘り、調べられた挙句、やっと誤解が解けて帰宅が叶いました』

「それは災難でしたね。…誤解、でしたか」

『ええ、誤解なのです』

 秀比呂はその言葉を強調した。

『お宅の佐野君、ですか、彼とあなたの御子息に、私は良い感情を持たれていないようですね』

「……どうでしょう。私の知る限り二人共、悪感情から人を陥れようとする人間ではないが」

『御子息らを信じていらっしゃる。親心ですね』

 その声に皮肉な響きはなかった。むしろ息子を盲信する父親を同情するような念が滲んでいた。寛容な表情をして、電話口で頷く秀比呂が目に見えるようだ。孝彰は書斎の机に置かれた家族写真を見る。小学生の竜軌が両親に挟まれ、冷めた面持ちで写っている。この写真を見るといつも孝彰は、息子に試されている気分になる。あんたはそれで良いのか、とあの聡明な男の声が聴こえるようで、だからこの写真を書斎に置いているのだ。重要な局面で判断に迷った時、冷静で的確な対応が取れるように。

「息子の声を聴かない父親に国民の声が聴こえるでしょうか。竜軌は粗雑な面も持つ男だが、卑劣な嘘は決して吐きません」

『どうやら私はあなたにも誤解されているようだ』

「そんなことはありませんよ、朝林教授。私はあなたの優秀さと人徳を尊敬しています」

 孝彰は柔らかい声を出した。

 北風よりは太陽の顔を見せるほうが、世の中を生きるに賢い。

 秀比呂は安心したようだった。ホッと溜め息を洩らしてから言う。

『良かった。またいずれ、お会いできるでしょうか?』

「ええ。折を見て私のお薦めの店にご案内しましょう」

『それは嬉しい。―――――楽しみにしています』



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