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泣き所

泣き所


「…美羽。布団から落ちるぞ」

 竜軌の予想通り、美羽は庭で過ごしたのち、彼の一挙手一投足に過敏になっていた。夜はどうなることやらと考えていると、美羽は一つ布団の端の端に身を寄せ、竜軌から出来得る限りの距離を置こうとした。

(言葉の刺激が強過ぎたか)

 相手はまだ十八歳の少女だ。

「あのなあ、今まで俺は耐えて来ただろうが。今日いきなりお前を襲ったりはせん」

 多分、と心の中で付け加えた。とかく美羽に関すれば感情のたがが外れる場合があるので、断言出来ることは少ない。

 それでも定位置から美羽は動こうとしない。竜軌は溜め息を吐いた。

「俺は別の部屋で寝る」

 胡蝶の間の襖修理が終わるまで、美羽は竜軌の部屋で過ごすことになっていた。

 すると美羽が慌てて、起き上がろうとした竜軌に布団の端から這って近付く。竜軌の腕を両手で掴み、頭をぶんぶんと横に振る。

 追えば逃げるが逃げれば必死になって追って来る。両目を閉じて竜軌の腕を捕らえて放さない。夜目ではよく判らないが、赤面していると容易に察しはつく。

(こいつのこういうところは、苛立ちもするが可愛い。が、可愛いと思い過ぎればやばい)

「美羽。大丈夫だ、ここにいる」

 そう声をかければホッとした顔になる。朧な闇の中、綺麗な顔立ちがほころぶのが判る。

(―――――思い過ぎればやばい)

 美羽が頭をそろ、と竜軌の胸に寄せる。

(思い過ぎればやばい)

 我に返ると、美羽の身体を突き放していた。

 美羽の顔が強張っている。失敗した。

(やばい)

「美羽、」

 勝ち気な顔が泣きそうになる。身体を抱き寄せると髪の毛を引っ張られた。

 泣きながら怒っているらしい。器用だなという感想はこの際、邪魔にしかならない。

「美羽、すまん。悪かった」

 美羽はまだ竜軌の髪を引っ張っている。結構、痛い。

「泣くな。美羽。ごめん」

 美羽はしばらく、すん、すん、と鼻を鳴らしていたが、やがて竜軌の浴衣の襟を掴んだまま眠りに就いた。



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