出せない
出せない
「新庄先輩。………濃姫様御自身が、声を出せない状態でおられるとしたらどうでしょう」
買い物から帰った真白が、冷蔵庫や冷凍庫を何度か開け閉めしたあと、新しく紅茶を淹れて竜軌と剣護の前に出してから言った。自分もソファに座る。
「出せない、とは?」
竜軌が目を眇める。
「例えば、重い喉の病気を長期間、患っておられるとか。強いストレスで声が出せなくなる場合もあるでしょう」
「…失声症とか、聞くな」
剣護も相槌を打つ。
「嵐下七忍が二年間、捜し続けて見つからないからには、普通の状況にはおられないのかもしれません。考えたくはありませんが、何か―――――――濃姫様の身に、異変が起きたのではないでしょうか」
「確かに〝みわ〟が帰蝶に相違無ければ、その可能性は高い。……声が出せぬ、か。聾学校は聴力に難のある障害者に教育を受けさせる学校だな。声が出ないだけであれば通学出来るとは思えんが。万一、耳も聴こえぬと言うことであれば捜してみる価値はある」
思案しながら語る竜軌に、真白が尋ねる。
「先輩の巫の力が、安定して自由に行使出来始めたのはいつですか?」
「高校…一、二年のころか」
「〝みわ〟と言う声を聴かれたのが高校一年でしたね。逆算して九~十年前。そのころを機に声の出せなくなった女性、それ以前より声の出せなかった女性、加えて〝みわ〟と言う名前も含め、改めて捜索し直しましょう。聾学校も念の為、当たってみます。もちろんそれでも網の目の大きさを鑑みれば、すぐに見つかると言う訳には行かないと思いますが」
「…やはりお前を荒太の嫁にやるのは惜しいな」
しばらく真白を眺めたあと、竜軌は様々な思惑からそう評した。