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答は

答は


 お弁当を平らげた竜軌は美羽の膝に頭を乗せ、シートに転がった。

 そして美羽の手に、何かひんやりと丸い物を持たせた。

 小さなガラスケースに黄色の小花が描かれている。

「金木犀の練香水だ」

 目線で疑問を提示した美羽に、竜軌が答えた。

 丸いケースの蓋を取ると、甘い香りが鼻に届く。

 優しくて甘い。今の竜軌みたいだ。

 ありがとう、と言う代わりに、竜軌の頭を抱いた。美羽の波打つ黒髪にふわりと顔を囲まれた竜軌の顔が緩む。

「他に欲しい物はないか?何でも言え。美羽が望むなら蘭奢待でも、中宮寺の半跏思惟像でも尾形光琳の紅白梅図屏風でも手に入れてやる」

〝竜軌、無茶なこと言ってるわ〟

「それくらいしてやりたい。何かないのか」

 美羽を見上げ、その片頬に手を添えて竜軌が訊く。

〝ダイヤでも?〟

「良いよ」

〝毛皮のコート〟

「良いよ」

〝高いブランドのお洋服〟

「良いよ」

〝ごめんなさい、それらしいものを書いてみただけ。あんまり、欲しくないの〟

 竜軌が優しいので、甘えたくなって試したのだ。

「じゃあ何が欲しい」

〝本当に何でも?〟

「何かあるんだな?言ってみろ」

〝呆れられるかも〟

「美羽」

〝私のこと、嫌いになるかも〟

「ならない。美羽」

 促され、美羽は緊張しながらその文字を書いた。丁寧に、ゆっくりと。気持ちが伝わるように。

〝竜軌〟

 欅の葉の揺らぎが、急に緩慢になった。

 美羽はもう一度書いた。

〝竜軌が欲しい〟

 その文字を目で追っても竜軌の返事は変わらなかった。

「良いよ」



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