竜
竜
〝庭の管理は、お母さんがされてるの?〟
「まさか。庭師に任せてある。……口を尖らせるな」
〝このお邸にいると、世の中ってすごく不平等だと思う時があるわ〟
「そうだろうな。だが格差社会に対する憤懣を俺にぶつけるなよ」
〝竜軌だったら、何とか出来る気がして〟
くすりと竜軌が笑う。
「世直しか。それを望めば親父の思う壺だ。そういうのはもう飽きたしな。園遊会の延長上の世界はしがらみだらけで面倒臭い。力を浪費する割に得られるものは僅かだ……美羽、何をやってる」
美羽はメモ帳とペンをズボンのポケットに入れ、樹の切り株に据えてある置燈籠の、苔むした笠石に生えた緑の草を引き抜こうとしていた。
作業の手を休め、紙に説明を書く。
〝雑草が生えてたから〟
「竜の髭だろう。それは、そういうものなんだと。情趣とか風情とかいう言葉のお仲間だ」
〝竜のひげ?〟
「草の名前だ」
〝漢字は竜?〟
「ああ」
〝引き抜くんじゃなかったわ〟
「俺の仲間だから?」
美羽が頷く。俺のほうがこいつに慰められてるな、と竜軌は感じた。
あたりには大きな欅が数本、植わっている。
「このあたりで飯にするか」
〝肉じゃがと、金平ごぼうと、鶏の唐揚げと、お握り〟
竜軌が口の端を上げる。
「御馳走だな」




