かごめかごめ
かごめかごめ
愛。
愛し合っていた夫婦。
美羽の両親も、嘗てはそうだった。そして崩壊した。
〝さいごまで、愛し合ってた?〟
「俺はそう思っている。…俺たちは、共に死んだ」
〝無理心中 とかではなく?〟
美羽の懸念するところを察した表情で竜軌がかぶりを振る。
「違う。どちらかと言えば、俺はお前だけは生かしたかった。だが、状況がそれを許さなかった」
竜軌は自分の父とは違う。
自分たちは両親のようではなかった。
美羽はそのことに安堵した。
そして、きっと肯定が返るとは思いながらも、今でも私を愛してくれているかとは訊けなかった。
朝食のあと、竜軌が部屋から去って、美羽は寂しかった。
外には当分、出るなと言われている。
今日は一人で撮影に出るという言葉に項垂れると、弁当を作ってくれないか、と言われた。美羽は出来る限り豪勢にと張り切った。荒太も手伝ってくれた。昨夜のことは何事も無かったように振る舞う、彼もまた大人なのだと美羽は思った。出来上がったお弁当を竜軌に渡すと頭に手を置いてありがとう、行って来る、と言われた。
何だか本当の夫婦の会話のようだと思い、美羽はこそばゆかった。
竜軌を見送ったあと、することを思い出して部屋でパソコンを扱っていた。
キーボードを打っていると声もかけられず襖が開く音が聴こえて、竜軌だろうかと何気なくそちらを見る。何か言い忘れたことでもあったのかと。
美羽は笑顔だった。
だがそこに立っていたのは竜軌ではなかった。
「帰蝶」
美羽の目が極限まで見開かれる。笑みの形に開いていた口が、そのまま凍りついた。
どうして、と思う。声が出れば金切り声を上げていただろう。
そうすれば誰かが駆けつけてくれたかもしれない。
それは空しい例え話だった。
「逢いたかったよ、帰蝶。私の愛しい蝶」
朝林秀比呂はそう言って、白く、すらりとした手で襖の内鍵をかけた。
金色の華奢な掛金が、小さく音を立てた。




