幸多かれと
幸多かれと
とても強いということと、傷つかないということは違う。
泣きもすれば笑いもする人間をどうして誤解してしまうのか。
(ごめんね。竜軌。ごめんね)
美羽は泣きながら竜軌の唇を舐め続けた。
やがて傷を負った唇が動く。
「…美羽。もう良い」
声はそよぐ風のように和らいでいた。
美羽は竜軌の手を握り、引っ張った。
優しい声が尋ねる。
「部屋に行って良いのか?」
美羽が何度も頷くと、そうか、と言って笑った。
布団で横に寝る竜軌の唇をずっと撫でているとその指を掴まれ、くすぐったそうな声で言われる。
「やめろ、抑えられなくなる」
怒りをだろうかと思い目を見ると竜軌は笑う。
「莫迦、違う。そうじゃない。そんな顔をするな」
もう怒っていない。傷ついていない。
笑っている。
良かった、と美羽は思った。竜軌が傷つくのはとても悲しくて怖くて、疑念から生じた自分の傷などちっぽけなものに感じた。
「…帰蝶の、昔のお前のことは、明日にでも話してやる」
竜軌は律儀にそう約束する。
それはもうどうでも良いことにも思えたが、美羽は頷いた。
美羽は自分の心を持て余していた。
どうすれば良いのだろう。竜軌のことがとても愛しい。
どこか暖かいところで彼が幸せに笑っていてくれたら、美羽もそれを見るだけで幸せになれる気がする。自分の幸せの指針が、いつの間にか竜軌の手に移っている。竜軌のことなら何でもかんでも優しく包み込んでしまいたい。
離れたら息も出来なくなりそうで、自分は少しおかしくなったのかもしれない。
この竜になら襲われても良いとさえ思う。




