傷から流れる
傷から流れる
「どうしたの――――――?」
真白の柔らかい声が、そこに介入した。
美羽と同じくパジャマ姿の彼女は、肩に薄手のカーディガンを羽織っている。
(真白さん)
荒太が真白の前に立つ。美羽を警戒する眼差しだった。
「俺はともかく、真白さんを打つな。あんたを許せんようになる」
「何を。荒太君、何を言ってるの。……美羽さん?なぜ泣いてるの。口に、血が。怪我をしたの?」
焦げ茶色の瞳は心底、美羽を心配していた。
その優しさが今の美羽には耐えられなかった。
「真白。今晩は胡蝶の間で美羽と一緒に寝ろ」
美羽と同じように口を赤く染めた竜軌を見て、眉をひそめた真白が言う。
「…それは新庄先輩の役目でしょう」
「信頼されていない」
自嘲の笑いと共に紡がれた声音は傷ついた色を帯びていた。
その場にいる三人が目を見張る。
竜軌は口元を歪めて笑みを浮かべていた。唇から血を流しながら、心に受けた傷も同様の有り様ではないかと見る者に連想させた。
強靭で気位の高い男が、傍目から見て明らかなほどに傷ついている。
美羽は自分の犯した過ちに気付いた。
偽りを口にした人間がこんな顔をする筈がない。ましてや竜軌が。
(―――――竜軌)
罪悪感が美羽の胸の奥から込み上げた。
しなやかで強く、美しい獣を自分が傷つけた。
俺を信じられるかと、美羽に問うた唇から血が流れている。
(私が竜軌を撃ったんだわ。猟銃で)
美羽は竜軌に歩み寄り、両頬を挟むと彼の傷を舐めた。
泣きながら、竜軌の流す血を舐め取った。
竜軌はうずくまる手負いの獣のようだった。




