表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/663

水面の下の下

水面の下の下


 襲われたことがあるのかと訊いたら、彼女は綺麗な顔立ちを強張らせた。

 誰にだと更に問うと、痛みを堪えるように、紅を注した唇を噛んだ。

 まさかとは思うが、と前置きしてその名前を出した。

〝斎藤義龍。お前の兄か〟

 帰蝶の顔が青ざめた。

 なぜその名を出したかと言えば、斎藤道三に体面した折、義龍が自分を激しく睨み据えていたからだ。単純な敵愾心には見えなかった。

 彼の顔を醜く歪めていたものの正体は嫉妬だ。

 嫉妬の顔の醜悪さは判りやすい。特に男のそれは。

 義龍が異母妹に恋慕していたとすれば得心がいく。

 帰蝶は生き地獄にいたのだと信長は察した。

 信長の目に映る蝶から、鎧が剥がれ落ちた瞬間だった。

 女を哀れと感じたのは、あれが初めてだったかもしれない。

〝守ってやると言えば信じるか〟

 信長の言葉に、帰蝶は不可解な表情を示した。

 長い間のあと彼女は、信じたい、と答えた。

 それがぎりぎりの本音だったのだろう。

(だから守ってやることにした)

 そう思った対象は帰蝶だけだった。

 朝林秀比呂は一筋縄では行かない男に見えた。

(万一、俺に何かがあろうと真白がいる)

 彼女ならば美羽を守ろうと動く。

(その為に、情の深いあの女を引き摺りこんだ)

 真白を利用する竜軌の目論見に、荒太は気付いている。

 荒太の取り扱いには慎重を期さねばならない。

 真白と美羽を秤にかける事態が起これば、荒太は美羽を切り捨てる。

 諸要素に気を配り、洞察と計略を重ねる必要がある。

 この局面を過ぎれば、蝶と一緒に飛び立つのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ