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誰かに似たあなた
誰かに似たあなた
シャワーを浴びたあと美羽が部屋に戻ると、竜軌が蘇芳色の机の前にある椅子に座って脚を組んでいた。
美羽のささくれ立った心が寄り掛かれるように、待ってくれていたのだ。
美羽は自分が情けなくなった。立ったままでメモ帳に書く。
〝竜軌。私は弱いのかしら〟
「いや。そういう問題ではない」
〝本当はもっと強いのよ〟
「知っている」
〝あなたを見ると甘えてしまう〟
「知っている。甘えれば良い」
〝弱い女みたいで自分が嫌になる〟
「つべこべ抜かすな。俺は甘えた奴は甘やかさない」
でも、と書こうとすると、文字が二重にぶれた。
足元がふらつき、立ち上がった竜軌に支えられる。
「腹の中身を全部出したんだ。休め。それから何か喰え」
美羽は返事を書くことも頷くことも出来ず、脱力してそのまま畳に座り込んだ。
竜軌も横に腰を下ろしてくれる。
悔しいと強く感じる。
一体自分の身に、何が起きているのだろう。
竜軌は恐らくそれを知っているのに、教えるつもりはないようだ。
やはりこの人は誰かに似ている。




