紅の玻璃
紅の玻璃
金襴緞子の似合う女だった。
元々が明瞭な顔立ちの美形だ。
飾れば飾るほど、艶やかに華やかに輝いた。
時に目をよぎる、翳はあったけれど。
褒めれば嬉しそうに、はしゃぐように笑った。
そんな顔を見るのは、悪くない気分だった。
濃い紅の玻璃が似合うだろうと思い、宣教師や商人に尋ねてみた。
〝上様。紅の玻璃は、作り出すのが大層、難しゅうございます〟
興に水を差された気がして不快な声になった。
〝なぜだ〟
〝技法が、〟
〝それを何とか致すのが職人であろうが〟
〝紅は難しゅうございます。瑠璃の色ではいかがでございましょうか〟
〝ならぬ。あれには似合わぬ。紅を持て〟
〝紅は難しゅうございます〟
〝そのそっ首に懸けて申すか〟
商人の額から滴った汗が、ぽとりと畳を打った。
〝紅は難しゅうございます〟
商人は辛抱強く繰り返した。
信長は男の胆力と商人としての誠心に敬意を表し、命は取らぬことにした。
〝あい解った。無理を言うたな。―――――したがこの先、面を見せるな〟
商人は平伏し、退出した。
使い勝手の良かったその男のことを、少しだけ、惜しいことをしたと思った。
くっくっく、と含むような笑いが聴こえた。
〝無茶を言わはるお方やなあ。赤い玻璃は難儀ですわ。信長公の短気は、その内、命を縮めるやしれませんねえ〟
その場に居合わせた荒太の前生・嵐は、笑いながら遠慮なくそう言ってのけた。
〝さもあろうな〟
信長は素っ気無く答えた。
自らの気性もその危うさも、言われるまでもなく理解していた。
〝紅の玻璃?そんな物、興味ない〟
後に帰蝶がそうあっさり言い放つのを聴いた時、何だ、執着していたのは俺だけであったか、と肩透かしを食った気分だった。
欲しいと遠慮なく言い、与えれば喜ぶが、与えなくても不平は言わない。
ただむくれる。
その顔が可愛かった。