扇風
扇風
主のいない部屋に置かれた、古風な木製金庫を荒太は見た。
それに似合いの古い、頑丈そうな錠前も。
だが彼はその金庫を素通りし、押入れに向かった。
戸を開け、押入れの布団の重なりを探ると、冷たい塊が手に当たる。
無表情にそれを引き抜く。
「いつからコソ泥に転向した?」
驚きもせず振り返ると竜軌が立っていた。
「…銃刀法違反よりは、マシやないですかね」
荒太の手にあるのはシグザウエルP230。
スイス製の自動拳銃だ。
「お前は金庫を探ると思ったのだがな」
「俺好み過ぎる。阿波のからくり錠やなんて、いかにもや」
「気前よく演出し過ぎたか」
「せやな」
「それを元の場所に戻せ、荒太」
荒太の首元には長い槍の先が光っている。
漆黒の柄に螺鈿の装飾。竜軌の得物である神器・六王。
「あんたがこれを使わん言うなら」
「出来ん約束だな。使わん物を誰が仕入れる?」
「飛空、ここや!」
竜軌の台詞の後半に被せて、荒太は自らの神器・飛空を呼んだ。
現れた腰刀の鞘を払うと同時に槍を薙ぐ。
神つ力のぶつかり合いに空気が振動する。
両者、次の刃を繰り出そうとしたその時、静かな声が響いた。
「雪華」




