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逆鱗
逆鱗
ぐったりと胸にもたれる美羽を抱える竜軌の顔は平静だった。
衆目はかなり集めていたが、彼は全く意に介さなかった。
竜軌は朝林秀比呂と蘭の遣り取りを陰から傍観していた。
園遊会で怜が耳にした秀比呂の台詞を聴き、彼を斎藤義龍と確認してから、いずれ必ず美羽にも近付くに違いないと考えていた。
予測は当たった。
(執着を忘れるようであれば捨て置いても良かったが)
未だ彼は、蝶に妄執している。
瞼を閉ざした美羽の青い顔を見る。
本来なら大人しく抱き上げられることを良しとする性分ではない。
手を差し伸べれば舐めなるなと言わんばかりの意気込みで払いのけ、自分の足で歩こうとする女だ。
(それがどうだ。この見るも無残な有り様は)
誇り高い蝶の矜持を傷つけ、損なう者。
性懲りもなく、踏みにじろうとする者。
黒い目が天を向いた。




