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逢魔があと

逢魔があと


 美羽の顔色を見た蘭は、引き返すべきと判断した。

「美羽様。戻りましょう。本日は邸内で過ごされたがよろしいかと。竜軌様も心配なさいます」

 美羽の心に渦巻くのは、強い不快感と恐怖だった。

 実に無害そうな、多くの人が見れば好感を抱くであろう秀比呂の姿、声、そして遠目にも見えた白い手が、美羽に奇怪なモンスター以上のおぞましさを感じさせた。

 蝉の声はこんなに大きかっただろうかと美羽は思う。

 頭が割れそうだ。うるさい。気分が悪い。

 吐き気が込み上げる。

「美羽様っ」

 うずくまった美羽の背に手を添えようとした蘭に、静止を命じる声がかかる。

「触るな、蘭。俺が連れて帰る」

「上様」

「――――――美羽」

 竜軌だ、と知覚し安堵の念が微かに湧くものの、顔を上げることが出来ない。

「おい、吐きたいなら吐け」

 その声を契機に、美羽の口から吐瀉物が溢れ出た。

 背中をさするのは竜軌の大きな手だ。

 胃の中身を全て出し切ったころには、すえたような匂いが美羽と竜軌を取り巻いていた。

 美羽は肩で息をしていた。

「…全部出したか」

 竜軌の露骨な問いに何とか頷く。いつの間にか消えていた蘭が差し出した、ペットボトルの水を口に含むと口中を漱ぎ、路上に出した。それから何口か水を飲み込む。竜軌の黒い革靴にかかった吐瀉物を見て、自己嫌悪に目元を歪める。しかしそれに浸る間もなく、竜軌に抱え上げられた。汚れた地面が急に遠くなる。

「落ちたら怪我するから暴れるなよ。蘭、後始末」

「承知しております」

「悪いな」



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